~恋する少女~
ここは人間界。
この話しはあっこが初めて意識するバレンタイン。
そう、今日は2月14日、バレンタインデー。
女性が好意をもつ男性に思いをつたえる日。
女性が唯一燃える(萌える?(爆)日。
中学一年生のあっこは、生まれて初めて人を好きになった。
その人は緒川 実【おがわ みのる】。(仮名)
そして、あっこは初めて人に告白をする。
キーン コーン カーン コーン…
7時を知らせる朝の予鈴が全校に響き渡る。
これに気付いた外で遊んでる生徒達は朝礼が始まらないうちに急いで
校舎内の下駄箱へ猛ダッシュで急いでいく。
たまに、体育履きを間違えて履いて行く人もいる。
とてもじゃないが運動場へ急ぐ人はこの勢いの中へ割りこめない。
それでも私はなんとか運動場へたどり着き、委員の指示にしたがって
背の順にならんだ。私は背が小さいので結構前の方へ並ぶ。
大分静かになり、私の学級は全員並び終えたので静かに私は地面へ腰を
降ろした。2、3分してからやっと下駄箱もいつもの静けさが出、
委員の【起立。】というアナウンスが流れた。
でも、私はアナウンスなんか耳に入らない。
瞳に映るのは、アナウンスを流す委員の実だけなんだ。
今日がバレンタインだと思うと、胸が妙にドキドキして我慢ならない。
いっそ、今すぐその人に飛びついて好きだと伝えたい。
そんな気持ちが続いて、気がついたら朝礼が終わっていた。
思いにふけって気がついたら終わっているなんて。
自分には30秒くらいの時間しか感じられなかったのに。
それが、何となく可笑しくて。
下駄箱と水道がまた教室へ急ぐ生徒で溢れかえる。
「男子って、どうしていつもこうなんだか。」
と友達達と喋っていると、朝礼台に置く先生用のバカデカイマイクを
一生懸命重たそうに持っている男子がいた。
…実だ。委員長だからだろうか。一人取り残されている。
「ほぅ~らあっこ殿、愛しのあのヒトがいますよ~ぅ」
そう友達が小突きをつきながらからかう。
「もう、やめてよね。もしまわりにバレたらどうするのさ」
おもしろ半分でそう返した。
「あれ、あっこ?ちょっとあっこ、どこ行くの?先行くよー!?」
友達が私の背中に向かってそう叫んだ。
好き、嫌いを関係なく、私は実の側へ駆け寄った。
何となく、困っている人を見ると放って置けないから。
「ほら、しっかり持ちなよ。男でしょうが」
私はそう言いながら倒れかけたマイクを間一髪で掴み言った。
「しょうがないだろ、これどれけ重いのかわかってんのかよ。
…てかさ、どうしてアンタが俺のところにいるワケ」
実がそう返してきたから、ビックリした。
ここで告ってしまおうか。
いきなり、そんな考えが早鐘のように鳴っている胸をよぎった。
でも、何となくできない。
「おい?どうしたんだよ」
実がもう一度言った。
「あ、ああ。」
私は我に帰り、すぐに返事を返した。
「先生に手伝ってやれって言われてさ。帰る時一番後ろにいたから、
呼びとめられちゃって。」
そんな適当なウソをついた。
告白なんて、やっぱりできない。
「ふーん、そうか。ならこっち持って、この箱に入れろよ。先端ぶつけ
ないようにな。いくぞ、せーのっ・…」
実が合図を掛けた。私は力いっぱいマイクを持ち上げた。
ゴトンッ。
ようやく、マイクが箱の中へ収まった。
「はぁ~」
私は実と一緒に大きなため息をついた。
「じゃ、早く帰…あ、れ」
そう言い、立ちあがろう瞬間、カクン、足が地面についた。
「あ、あれ??――った!」
急に足に痛い衝撃が走った。
先に行こうとした実がそれに気付き、私の方へ駆け寄ってきた。
「なんだよ、足くじいたのか?」
実がからかい半分で言ってくるから、ついムカついて
「別に!先に行っててよ、私後で行くし」
と無愛想に言ってしまった。
「なんだぁ?コイツ。わっけわかんねーし」
実がそう吐き捨てると下駄箱へ走っていく。
あれ。
私どうしてこんなこと言ったのだろう。
どうしていつも、チャンスを失うのだろう。
…どうしていつも、好きな人を好きじゃないように言うのだろう。
実が好きなんだよ。
大好きなんだよ。
お願い、気付いて
そう心の中で固く願いながら私は硬直した。
ホロリ。
私の涙が、頬をつたって膝に小さな音を立てて落ちた。
好きなのに。大好きなのに。
いろいろな思いが胸をよぎっていった。