その2
<その2>
リネージュ財団本部ビルがドタバタしていたその頃、月の裏側に建てられた、向島きょうじゅの秘密基地。
【きょうじゅ】「だーっはっはっはっは!いよいよチャオの誕生日こと正反対…じゃなかった、なんじゃっけ?
まぁいいじゃろう、そのナントカまであと数日!作戦の実行まで抜かりなきように!!」
と、数匹のチャオを前に演説?する。
【ロルフィーヌ】「まったく、この華麗なる僕まで月に駆り出されるなんて奴は一体どういう神経をしているんだ…」
ナルシストチャオ、ロルフィーヌ。
【紀流院】「知るかよ、それより新しい格闘術が学べるって話、まだか?」
格闘バカなチャオ、紀流院。
【タキオン】「よく分かんないけど、父さんはヤルキナシの実がもらえたらそれでいいんだな。」
紀流院と双子で、ぐ~たらおやぢチャオ、タキオン。
【ペンチャ】「いよいよきょうじゅが本気を出すらしいが…何をするつもりだろう?」
きょうじゅの教え子、ペンチャ。
【水猫】「きょうじゅの考えることは全く分からないですからねぇ…でも今回はこんな大規模なことを…」
やはりきょうじゅの教え子で、彼に負けず劣らず優秀なチャオ、水猫。
…謎の目的のために集められたきょうじゅの知り合いたち(?)。ここで、きょうじゅが自らの目標を高らかに宣言した。
【きょうじゅ】「チャオの誕生日!12月23日にワシは!月から地球に降り立って新世界の神になるのじゃーっ!!」
【紀流院】「何だとぉっ!?じゃあまさか…新しい格闘術が学べるってのは嘘だったのかっ!!」
【ペンチャ】「いや『あれ』に格闘術が教えられる訳ないんじゃ…常識的に考えて…」
あっさりと騙されすぎの紀流院。
【きょうじゅ】「そのために地球に降りるための乗り物がこれじゃ!」
と、きょうじゅは自分の背後にある幕を引いた。そこには———
【ペンチャ】「ロボット!?」
【水猫】「何か隠してると思ったら…これだったのか!」
いくつものロボット。つまり、これに乗って降りるつもりらしい。
【ロルフィーヌ】「ふっ、なかなか華麗な計画じゃないか。そのためだけにわざわざ月に来るなんてまた素晴らしい。」
【紀流院】「共感しやがった!
…しかし、月からロボットに乗って降りてくるなんて話、どっかで…はっ!∀ガンダム!!」
【ペンチャ】「しーっ!ここはセガ的にファンタシースターゼロと言っておけ!!」
【タキオン】「明後日発売らしいからみんな買うといいんじゃないのかな。父さんは買わないけど。」
【紀流院】「分かったからお前ら露骨な宣伝やめろーっ!!」
【水猫】「そういえば第1期週チャオ全盛期は∀ガンダムの放送時期と被りますからね…と、それはさておき。
きょうじゅ、地球に降り立つのはいいとして、目標は?」
【きょうじゅ】「よくぞ聞いてくれた!目標はこのホテルじゃ!」
と、横のスクリーンに地図が映し出される。そして、ルーティア嬢が記念パーティーを行うホテルに目印が。
【きょうじゅ】「ここで政府の幹部によるパーティーが行われるそうじゃ!そこに乗り込む!」
【ロルフィーヌ】「ほほう、珍しくマトモに考えてあるじゃないか。」
【紀流院】「新世界の神になるってのがよく分かんねぇが…まぁいい、どうせ他に降りる手段も無いんだしやってやろうじゃないか。」
なんだかんだでみんな乗り気な方々。
【水猫】「いや、ちょっと待った。このロボット、どこかで見覚えが…」
【紀流院】「ん?そういえば…」
そのロボットは、まるでオモチャオのような外見。…そう、
【タキオン】「父さん思い出したぞ!生首置物だ!!」
【ペンチャ】「違ーうっ!!」
【水猫】「オモチャオーじゃないかっ…!」
オモチャオ型巨大ロボット、オモチャオー。TOYという正義の味方の組織が所有する巨大ロボットなのだ!!
【きょうじゅ】「はっはっは!よく分かったな!!ちょっと設計図をTOY本部から借りてきたのじゃ!」
【ロルフィーヌ】「…それは『パクった』と読めばいいのかな?」
【紀流院】「いいんじゃねぇのか?」
そんなこんなで、計画は進む。
===
さらにその頃、ステーションスクエア郊外。
魔法の雑貨屋さん『くりすたる堂』を訪れる、1人の女性がいた。
【しぃぷ】「あれ、お客さんなんて珍し…あ、こんにちは!」
店番はこの店の次男、しぃぷ。
【霜月】「こんにちは、しぃぷ君。」
霜月麗香。言ってみれば、同業者。街の大通りでアンティークショップ『霜月堂』を開いている。
今日はパートナーのアンナ=バルドルに店番を任せて、くりすたる堂にやってきた。
元々霜月堂の品揃えのうち、大半がここで仕入れたもの。霜月堂自体、彼女の趣味で集めたコレクションを展示しているだけのような店でもある。
【ナッちゃん】「おー、これはこれはおねーさん、いつもありがとうございます。」
奥から出てきたのは、この店の主人でしぃぷの父親のナッちゃん。
【霜月】「いえいえ、こちらこそ。…ところで、水猫くんは?」
水猫は、ナッちゃんの長男、しぃぷの兄にあたるのだ。
【ナッちゃん】「あー、水猫なら、2週間ぐらい前にちょっとしばらく出かけると言ったきり、帰ってこないのですよ。」
【霜月】(ちょっとしばらくってどれくらいなのかしら…)
と彼女はちょっと考え込むが、このチャオも(きょうじゅ程ではないが)壊れているので、それ以上考えないことにした。
【霜月】「そうなんですか、珍しいですね。…おっと、そうだった、注文の品は入ってるかしら?」
【ナッちゃん】「もちろん!ささ、奥へどうぞどうぞ。」
そうナッちゃんに招かれて、霜月は店の奥へと入っていった。
【しぃぷ】(そういえば、ルーキ君もお父さんがしばらく出かけてるって言ってたっけ…)
店の奥、薄暗い倉庫のようなところ。
【ナッちゃん】「えっと…これですかな?」
【霜月】「あー、これこれ!一度見てみたかったのよねぇ…」
と、手に取ったのは、アンティークのガラス細工。
【ナッちゃん】「そうそう、そういえば、これを仕入れる時に、ちょいと耳寄りな話を聞きましてね。」
………
【霜月】「へぇ…それは面白いことになりそうね…」
【ナッちゃん】「でしょう?」
【霜月】「これはあの招待状に『イエス』と書くしかなさそうね…」
そう言い、ふふふ、と小声で笑ってみせた。
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再び場面はリネージュ財団本部。場所は会議室へと移る。
【ルーティア】「では改めて!作戦会議を始めるよ!」
【神楽坂】「そういえば、最近きょうじゅが妙に大人しいな、と思ったらこういうことだったのか…」
チャトル大学教授でもある向島きょうじゅは、普段は隣にある付属高校をも巻き込んで毎日大騒動を起こすのだが、最近はめっきり起こらなくなっていたのだ。
【川島】「まぁ、今までもしょっちゅう行方不明になるから大して気にはしてなかったけど…」
【エルファ】「問題は、きょうじゅがどこに行ったか、ですね…」
【ルーティア】「それなんだけど、ちょっと色々調べたら、こんなのを見つけたんだよ。ぴーた君、お願い!」
と、ボディーガードのオモチャオ・ぴーた君に言う。
【ぴーた君】「了解シマシタ…もにたー起動シマス。」
と、会議室のモニターに、地球と月の地図が映し出された。
【木更津】「これ、何?」
【神楽坂】「えっと、これが地球で…って、ひょっとして地球が丸いとこから説明しなきゃダメか?」
木更津は科学技術の代わりに魔術が発達した世界の住人。まずは「地球が丸い」というところから説明する必要がある。
という訳で、中略。
【木更津】「へー、なんかよくわかんないけどすっごーい!」
【川島】(結局分かってないみたい…)
ようやくぴーた君が説明開始。
【ぴーた君】「数週間前ニ、向島キョウジュ製作ト思ワレルろけっとガ地球カラ月ヘト向カウノガ確認サレテイマス。」
【エルファ】「月、ですか…」
【ルーティア】「なんでパーティーを爆破するのに月に行くのかよく分からないけど…要注意ね。」
【神楽坂】「きょうじゅのことだから、派手に攻めてくるんじゃないですか?」
【川島】「というか十中八九そうね…」
そこで木更津が質問をぶつける。
【木更津】「えっと、そのきょうじゅってチャオがお月様にいるんだったら、あたし達も行けばいいんじゃない?」
【ルーティア】「うーん、お金と技術はあるんだけど、さすがに宇宙までは想定外で、23日までに準備できそうにないんだよねー…」
リネージュ財団、意外なところに弱点。では、どうするか。
【ルーティア】「まぁ、コソコソやられるよりは派手に来てもらったほうがやりやすいわ。23日に派手にドンパチやっちゃおーっ!」
【川島】「って、先輩!遊びじゃないんですから!」
【ルーティア】「だってその方が盛り上がるじゃん?」
【神楽坂】(無事で済めばいいけど…)
その時、突然ケータイの着うたが会議室に響き渡った。
♪もっていけ!最後に笑っちゃうのはあたしのハズ!…♪
【エルファ】「!?ちょ、ちょっと失礼します!」
またまたエルファのケータイ。彼女は慌てた様子で電話を取った。
【神楽坂】「って、もってけ違い!?」
最初のもってけをどこで聞いたんだというツッコミはさておき。
【エルファ】「もしもし!?こんな時に何の用ですか!?へ?『月は出ているか?』知りませんよそんなの!
こっちはそれどころじゃないんですから、切りますよ!いいです!?それじゃ!」
…ガチャ。
【ルーティア】「え、えっと…何も聞かなかったことにしておいたほうがいいの?」
【エルファ】「そ、そういうことにしておいてください…」
と、そこで彼女は大きなため息をついた。
【エルファ】(しかし…これは『あれ』を使うことになりそうですね…)
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こんな感じで適当にそれぞれの思惑が絡み合ったりそうでもなかったりする中、12月23日、当日がやってきた。
<続く>