7話
扉が開いた。
そこは研究室の雰囲気ではなかった。
「箱庭・・?」
肩の力がスッと抜けた。
この部屋の雰囲気というのがあまりにも似合わなさ過ぎて。
ただ緑が部屋一面に広がっていて、噴水からは水が豊かに湧き上がる。
小さなプールらしき物も見える。
箱庭サイズのオアシスと言うのが妥当だ。
何が
CHAO?
何が
アメリカ?
こんなちょっとばかしの緑と青が隠し通していた物と思えば・・・
疲れも増す。
やる気も失せる。
溜息しか漏れてこない。
「敵さん、倒したのかい?」
「・・・・プロフェッショナルだ と言っただろ?」
「流石・・・。」
感嘆の息を漏らす奴と呆れて溜息を吐く俺。
振り返ればレイヴァンがいた。
その耳につく話し方は変わらない。
さっきと違う所といえば左腕を赤く染めていた事。
真芯を捕らえられた様だ。
流れる鮮血は痛々しいが生きてる証拠。
心臓に被弾せずに良かったな。
「・・・・傷は大丈夫なのか?」
「感覚がなくなっているからな・・・。」
「科学者ってのはハプニングに弱いイメージがあるがな。」
「こういう性格だからな・・・・といっても止血の処置もした、後は逃げるのみだ。」
肩には研究衣の一部を切り取った布切れで縛っていた。
とはいっても血はドロドロに流れては床を汚す。
表情も青白く、余裕はなさそうだ。
「さてと・・・・帰るか。」
「おい?」
「ん?」
「CHAOはどうするんだよ?」
「CHAOなんてガセネタはもういい。」
「ガセじゃねぇ、口笛吹いてみな。」
「は?」
「いいから口笛を吹いてみろって。」
「・・・・」
少し吹いてみた。
音は響いた。部屋の壁、床、天井や木々を跳ね回って。
一定のリズムで保っていた音も息継ぎをするために止めた。
刹那
「なんだ!?」
木々の間から一匹の生き物が飛び出した。
見たこともない動物だ。
水色の小柄な身体、背中にのせるは丸い尻尾と可愛らしい羽。
愛くるしい仕草。
妖精・・・・なるほど。
ユウヤは苦笑した。
これがCHAO?
確かに未確認であった。まるで妖精の様だ。
世紀の大発見だろうな、だが・・・・
これが兵器か?切り札か?
詳細を知らなくても仮に知っていてもこれがアメリカを崩すとは思えない。
「ほ~ら! あんなとこにもCHAOが。」
「・・・二匹か。」
もう一匹、噴水の影に隠れていたCHAOが動き出した。
一対のCHAOは互いに姿を見つめては、目の前に佇む二つの異物(人間)を観察していた。
あるのは興味、関心、好奇心。
敵意は全く感じられない。
ユウヤの足元でグルグルと走り回り続けるCHAOと、安全圏から常に様子を伺うCHAO。
人間の子どもと、動き、仕草までも変わらない。
違いは体格、見た目くらいだろうな。
「連れて行っても問題は無いんだな?」
「ここに居るよりは数倍マシだマシ。」
ユウヤは足元を世話しなく走っていた一体を片手で抱きかかえた。
驚くほど従順、抵抗はしなかった。
そしてもう一体はユウヤ自らが近づいて抱き抱えた。
こっちは少し暴れたもののすぐさま大人しくなった。
「任務は一応完了。」
「あくまで一応なんだな。」
「・・・・ややこしくなりそうだ。」
ユウヤはこれで何度目かわからない溜息をついて後にした。
敵に気づかれた事と交戦した事、
追っ手の追撃等、
マイナス要素が頭から離れないまま。
立ち去る彼等、ただ、一台のカメラだけがその様子を追っていた。