6話
「誰だ!貴様!!」
鳴り響く銃声は今まで穏やかだった空気を完全に壊していた。
飛び交う銃弾の一つは壁に、一つは床に。
そして銃弾の一つはユウヤを捕らえていた。
「くそっ!」
黒のコートの一部分に赤色が滲み出る。
模様が浮き出ているのは彼の左肩。
咄嗟に身を隠した物の、無傷とまではいかなかった。
肩から腕を通じてスウっと垂れる血は床を着実に汚していく。
そしてまた銃弾も追い討ちをかけろと更に飛び交う。
遮蔽物に身を隠しているとはいえ、流石に余裕は無かった。
どうすればいい?
戦う事は避けられないが・・・。
ユウヤは中佐に助言を求める。
「中佐!まずいことになった。」
「・・・中佐?」
声が聞こえない。
まさか
ユウヤの中である憶測が浮かぶ。
そしてすぐさまにその答えがそうか否か、確かめる。
通信機を収めているホルスターから微かな煙、そして焦げた跡。
・・・やられた。
この状況を一人で解決しなければならない。
無性に不安だ。
無言でひたすら銃を扱う連中は二人。
しかもその二人共が室内入り口を占拠している、出口はもうない。
ユウヤがとるべき選択は一つであった。
覚悟を決めろ!
もう選択する時間すらまともにない!
もう一度遮蔽物から覗き込み、敵を再確認する。
敵は二人、銃器は・・・アサルトライフル。
増援が来る可能性は・・・・多分あると考えろ!
弾丸が飛び交うのを止めた、ほんの一瞬の隙を突きユウヤは飛び出す。
右手に備え付けた愛銃を照準に合わせるや、最初の弾丸を射出した。
標的となったのは敵ではない、その頭上に広がっている透明な壁であった。
音とガラス片が周囲に飛散する。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
続いて悲鳴も湧き上がった。
ガラス片とその奥に収められていた薬品のビンを狙撃したのだ。
奇妙な蒸気を出す液体とガラス片とが、一人を完全に仕留めていた。
「ひっ・・」
予想外の事態にうろたえた敵に対してユウヤがすべき事。
・・あれだな。
指を引き、二つ目の弾丸を、部屋に入ってすぐの隅に着弾させる。
赤い小さなタンクにそれは当たり、周囲に白い煙を吹きかけた。
部屋の片隅が真っ白に染まり、敵は更に混乱状態に陥ってた。
ユウヤは銃を収めて、煙幕に咽るもう一人の肩を掴んだ。
渾身の力で地面に叩きつけた。 鈍い音が足元で発せられる。
そして流れる沈黙・・・。
―終わった・・・・・・か?。
ユウヤはようやく息を吐けた様な感覚だった。
運動量的には大した事ではないのに、ものすごく息があがる。
ユウヤはその場に座り込んだ。
はぁ・・・。
もうどうにもならない無線機を眺め、ただ息を吐くしかなかった。
肺の空気を完全に吐きだした時、肩に痺れの様な痛みが強まる。
「痛っ! ・・・ん?」
ユウヤの血と弾痕でコーティングされた床に見慣れない物が一つ。
それはさっきまでレイヴァンが手にしていたはずのIDカードであった。
血で塗れたIDカードだが、使用するのに支障はなかった。
「これで・・・。」
ユウヤの視点はロックされた扉、そしてその向こうしか見ていなかった。
ゆっくりと扉にちかづき、カードを通す。
頭の中では、まるで走馬灯のように記憶が再生される。
(UMA・・・ 未確認生物の事だな?)
(2012年 UMAリストに一種類、新たな生物が更新されたことを知っているか?
(そのCHAOがここにいる。 存在すら不確かな物が・・・世界をおびやかす。)
「CHAO・・・? まさかな。」
否定する。
そんな存在をどう信じろと?
でも俺はどこか期待しているのかもしれない。
静かに扉を開いた。