5話

「レイヴァン、俺にも分かるように説明してくれ。」
すると指名を受けた人間は徐に椅子を引っ張り出してきては腰掛けた。
ユウヤの分も用意したのだが、その誘いには乗らなかった。
見上げる様にして話を始めるレイヴァン。

「一言に言えばUMAだ。」

「UMA・・・未確認生物の事か?」

「そう。」
UMA 【Unidentified Mysterious Animal】の略称。
Cryptidなんて呼ばれ方もするが意味は同じ。
未確認生物。

何故、こんな所でUMAの話題が出るのかわからない。
本当にこのレイヴァンという男は大丈夫なのだろうか?
変な薬でも打って、脳みそが8割程解けてきているのかもしれない。
そんな事を思えばこうして悠長に聞いている事がもったいない。

「宇宙人の地球侵略だとか、映画の話は勘弁してくれ。」

「映画でも漫画でも妄想でもない。REAL WORLD。」

「・・・ドラッグの中毒者は皆、そう言うよ。」

「   ふぅ・・・。」
灰皿に煙草を押し付ける。煙草の先とレイヴァンの口からは残り香が薄く昇っていた。
余韻を堪能したが、やがてそれも消え去ると彼の口はまた動き出した。

「・・・・・2012年。UMAリストに一種類、新たな生物が更新されたのを知っているか?」

「いいや。何も知らない」


CHAO 


レイヴァンはそう言った。
ユウヤにも聞き覚えがある単語だった。
CHAO・・・昔見た特集番組にもこの名詞が出ていた。
UMA特集か、あるいは都市伝説か。
どちらにせよ胡散臭い内容だった。
記憶からごっそりと抜けていたが、今になって再び戻ってきた様だ。

レイヴァンは話を続ける。

「CHAOが発見された場所は南アフリカ共和国、密林奥地。 親らしい存在は確認されず。」

「子どもなのか?」

「一見はな、あれをオトナとするにはよっぽどボヤけるレンズを買わねぇと。」

「・・・・それがアメリカを覆す?」

「存在自体が危険じゃあない、危険なのは奴らの特性。 【UMZ】って奴だ。」

「【UMZ】・・・?」

「って話だ。 おしまいおしまい。」

「そんな話を信じろと?」

「確かめてみるか?」
指差す先には扉。
IDカードによってロックされた重厚な扉の向こう、その先にCHAOがいる。
指し示す二本の指にはIDカード。
ユウヤの視線と手が自然に伸びる。

「しかしだ!CHAOを見る前に俺達の安全を保障してもらわないとな。」

「・・・・わかっている、だから改めて脱出路を確保するまでは非難していてくれないか?」

「いけるのか?」

「これでもプロフェッショナルだ。」
レイヴァンは椅子から勢いよく立ち上がった。
答えは決まった。

レイヴァンの指示により十数名の研究員は次々と隣の薬品保管庫に移る。
薬品保管庫ならば安全・・・もし連中に気づかれても研究員達は脅されて中にいたという名目で危害は加えられない。

「さぁ、レイヴァン。早くお前も・・」

「元よりそのつもりだ。」
その瞬間だった。
ユウヤの背後で音がした。
物音、靴音、銃声、叫び声が。


「誰だ!!」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第323号
ページ番号
7 / 31
この作品について
タイトル
Lord
作者
キナコ
初回掲載
週刊チャオ第319号
最終掲載
2009年5月12日
連載期間
約1年17日