3話
内部の構造・・・。
地上に存在していた建物がそのまま地下に移動させたといっても過言ではない。
ただ窓もなければ、外もない。
脱出口はエレベーター ただ一つ。
ユウヤはそっとワイヤレスイヤホンを耳に装着した。
無線機を専用のホルスターに収めて片手を自由にする。
「ワイヤレスイヤホンを装備したな?」
「あぁ、良好だよ。」
「何か手がかりとなる物はあったか?」
「何も。見張り一人さえ満足に見当たらない。」
「妙だな・・・」
「何にせよ見つからなければ俺の勝ちだ。」
ハワードの警戒もユウヤの回答、どっちも正しい。
危惧することも提示するのも立派な選択肢で意識すべき事だ。
この考えが正しい 二人の答えだ。
しかし現実の状況があざ笑うかのようだった。
目的も、遮る壁もいない。
騙されているのだろうか・・・?
見えぬ敵の罠の中でもがいているだけではないのか・・・?
「ハワード中佐、気になることがある。」
「何だね?」
「この情報の発信源だ。」
「ほぅ。」
「・・・」
「情報提供者は・・・どうやらその施設にいるらしいな。」
「ここにだと!?罠の可能性でもあったら・・・」
「罠を張っているのであればこの施設を見つけられる前に殺す方が利口だろうな、わざわざ山脈の一部を間借りした基地を用意しているのに場所を割られては殺した後のリスクが大きい。」
「・・・まぁな。」
「それ以前に場所を明かした所で連中に得がないだろう?」
「・・・・ならどうやって連絡できる状況を作ったんだ?」
「それこそ本人達に聞いてみればいいだろう。 切るぞ」
ユウヤの潜入捜査は続いた。
疑問も少しは解消したものの完璧ではない。
敵兵は以前一人も見えぬまま。
何故だ?
監視カメラ、その他トラップ一つも見えぬまま。
誘導されているのではないか、レールの上を走る機関車のように。
何故だ?
奴等が俺を誘って何の意味がある?
口封じか? 仲間に引き入れる為?
「・・・・スゥ ハァ・・・ !」
立ち止まって深く息を吸い、それを吐いた。
口が渇いて吐息は少し臭かったが、代わりにユウヤの頭は落ち着いた。
俺の任務・・・。
「それはここで進められているプロジェクトの全容を把握する事!」
小さく力強く呟いた。
ユウヤの迷いは幾分断ち切られ、残ったのは程よい警戒心と鮮明になった目標のみ。
廊下には何一つ異常は見当たらなかった。
障害となる物の気配など、微塵も感じられない。
テキストの動き通り、壁に張り付いて、辺りを確認して、慢心にはならず。
警戒を怠らずに。
ユウヤは忠実に動きをこなした。
その繰り返しは功を奏した。
一本道の廊下の奥には扉。
明らかに他の部屋とでは作りが違う、場所も違う。
・・・・あれだ!
確信を抱くには容易であった。
だが・・・見張りが見当たらない事だけはどうも腑に落ちない。
そっと扉に近づき、もたれ掛る。
奥の部屋からは何も聞こえてはこない。
突入の覚悟を決しよう。
銃を右手に、ドアノブを左手に伸ばした時であった。
不意にもその扉は内側から開けられた。