2話
トンネル・・・というよりは地下に設けられた駐車場入り口といった方だ。
灰色一色と蛍光灯で薄もやに光るフィールドと、様々な大型車。
介護車両のようなタイプもあれば、さながら軍用車両までよりどりみどりである。
ユウヤは適当な目立たない場所に自分のバイクを置いた。
ガソリンのメーターはもう零を指していた。
これはもう役に立たない鉄屑だ。
男は腰のホルダーに手を重ね、ゆっくりと中身を手に収めた。
蛍光灯の淡い光が、限界まで研ぎすまされた銃身を鈍く輝かせる
銀色だ。
丁度目の高さまで銃を持っていき、構えを始めた。
弾数は6発・・・サイレンサー等、何もない。
仮に見つかれば銃撃戦が展開される、単純に頭数と弾数ではとても適わない。
それがよりいっそうユウヤの警戒心を強くさせた。
だが、周りを調べてみるも奇妙なことに何一つ、誰一人も見当たらない。
男の警戒心は鋭くなる。
駐車場とを繋ぐエレベーター。
それが先に進む唯一の方法か・・・・・
選択の余地などない、敵と鉢合わせになる事を心から拒みエレベーターに近づく。
エレベーターが開いた。
誰もいない。絶好のチャンス。
中に転がり込み、警戒心をひたすら研いだ。
エレベーターが地上と隔離されるその瞬間まで、銃口は常に扉を向いていた。
…内部の造りは単純そのものであった。
地下を示す下の矢印と、地上を表す上の矢印。
ユウヤは下の矢印を迷うことなく押した。
わずかに揺れる空間、そして降下する。
速さはとてもゆっくりだ、まるで闇に飲み込まれていくかのように。
ユウヤの意識は現在の時間に在るのではなく、過去まで遡っていた。
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「・・・カナダ?」
数日前の俺は、まずこう発していた。
任務地を指定された時によく使う、確認である。
こう俺が答えれば、目の前に立つ人物も決まってこう相槌をうつ。
「あぁ そうだとも。」
俺の目の前に立って腕組みしていた男。
40も過ぎ、もう50を迎えても可笑しくない外見。
この作戦の総司令を勤めていて、俺がCIAに入りたての時からの上司である。
名前は・・・
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ユウヤの意識が戻った。
どうやらエレベーターが目的のフロアに着いたらしい。
扉を開ける前にユウヤは装備を弄り、ある物を取り出した。
無線機だ。
「・・・・こちらユウヤ ハワード中佐、目的地に到着した。」
「うむ、予定通りに事が進んでいるな。」
「・・・とは言うものの・・・まさか地下に施設があるなんて・・・・聞いていないな。」
「ほぅ。しかしまぁ、たいした問題ではないだろう。君の任務が地上か地下かで変わるわけではない。」
「・・・こんな狭苦しい空間で煙草を吸うかと思うと息が詰まるさ。」
「・・・ゴホン! 君の任務はその施設内で進められている極秘プロジェクトの内容を探る事だ。」
「わかっている。」
「あくまでも調査であり、戦闘沙汰は極力避けてくれたまえ。」
「まぁ・・・騒がれると計画そのものを破棄される可能性もあるからな。」
「いや、単に死体の処理が面倒でな、切るぞ!」
「それは誰のことを・・・・・・・切れた。」
呆れて溜息しか出なかった。
あのいい加減な応答にいつもユウヤは振り回されている。
が、ユウヤに悪い気はしない。
銃を構えて扉のボタンに手を伸ばした時、無線機から連絡が入った。
「言い忘れていた、今から言う事はくれぐれも忘れるなよ。」
「何だ?」
「これは訓練でも、テストでもない、実戦である事を忘れるな。」
「・・・あぁ。」
「そしていざという時は躊躇するな。 わかったな!」
「了解! 任務を開始する!!」
西暦2022年 6月16日 PM2:37 突入