≪その2≫
≪その2≫
—————気がつくと、そこに3人はいた。
【???】「あなたが二本松優子さん…そして五十嵐智也さん、宮坂愛美さんね?」
【二本松】「ええ…」
【宮坂】「そ、そうだけど…ここ…どこ?」
【五十嵐】「真っ暗で何も見えねぇ…」
何も見えない、というのは厳密には間違いである。3人の視界には、お互いが見えている。だがそれ以外は、『何もない』。ただ、黒が続いている。
そして、どこからともなくしてくる女性の声は、こう続けた。
【???】「落ち着いて、よく聞いてください。
…貴方達が住んでいる世界が、『闇の世界』だということは、貴方達は知っていますね?」
【五十嵐】「あ、ああ…」
そう、知っている。
『あの文章』を見たのだから、知っている。
自分達の住んでいる世界が、本当の世界ではなく、闇に侵食された世界であるということを。
【???】「去年の12月23日に、貴方達の世界は闇に侵食されました。
簡単に言えば…、貴方達はそれ以降、『幻』を見せられているのです。」
その幻とは言うなれば、去年の12月23日に一旦時計を止めて、『もしチャオがいたら』を始めとするいくつかの『仮定』を織り交ぜて再び時計を進めだしたようなもの。
【???】「そして、今貴方達の目の前に広がる、真っ暗な光景———
これが、貴方達の『真実の世界』なのです。」
【宮坂】「つまり私たちの世界は、去年の12月23日に闇に侵食されて、真っ暗になったってこと?」
【二本松】「そしてその世界の住人であるあたしらは、ずっと幻を見せられている…」
【???】「そういうことになりますね。」
普通ならば、そもそもなぜこんな場所にいるのか、というところから気になるはずであるが、それに疑問を挟むことを彼らはしなかった。
なにせ『あの文章』を読んだ後である。彼女の言うことを、素直に信じる余地があった。
【五十嵐】「1つ聞いてもいいか?
…そもそも『闇の侵食』とやらは一体誰が仕掛けたのか知ってるのか?」
五十嵐がそう質問する。つまり、『犯人は誰か』と聞いたのだ。それに対する『彼女』の答えはこう。
【???】「私にも正確なところは分かりません。
ただ、私たちが調べていくうちに、闇に侵食された世界を守る、『魔女』のような存在がこの世界に存在することが分かりました。
恐らくその『魔女』が原因、あるいは原因に繋がる可能性が高いと思われます。」
【五十嵐】「その魔女とやらが少なくとも何らかの事情を知っている可能性が高いと…」
【二本松】「…で、あたしらは何をすればいいの?魔女を倒せばいいのかしら?」
【???】「その魔女から話を聞き出せればベストですが…まぁ似たようなものですね。」
話を聞くにしても、倒すにしても、魔女のところに辿りつかなければ始まらない。そういう意味では、魔女が目標であるという点に何ら変わりはない。
【宮坂】「でも私たち、普通の高校生だよ?漫画やゲームじゃないんだから、剣や銃も使えないし、魔法や特殊能力もないし…」
【???】「もちろん、何もなしで、とは言いません。『彼ら』を手伝いに向かわせましょう…少々お待ちください…」
そう『彼女』が言うと、しばらくそこは静かになった。
だが、彼ら3人は、一言も喋らず、ただ黙って待っていた。
数分経っただろうか。
再び『彼女』の声が聞こえた。
【???】「準備が整いました…今『彼ら』をそちらへ送ります…」
すると、暗闇が裂け、空間を破るようにして、3匹のチャオが姿を現した。
【チャオA】「ここが、闇に侵食された世界…」
【チャオB】「確かに真っ暗だな。」
【チャオC】「でもチャオや人の姿はハッキリと見える…不思議な世界ねぇ。」
【???】「『彼ら』の名前は、貴方達から見て左から『フレイナ』『ジェリオ』『クレーヌ』…」
【フレイナ】「よろしくお願いします。」
【ジェリオ】「ま、そーいうこった。」
【クレーヌ】「とりあえずお三方、頼むわよ?」
この時、生徒会3人組の並びは、左から二本松・五十嵐・宮坂。
自然と、二本松とフレイナ、五十嵐とジェリオ、宮坂とクレーヌがペアになる形になった。
【???】「貴方達が3人でこちらが3匹ですし…ペアを組んでもらえればちょうどいいでしょう。」
【五十嵐】「…で、彼らは何ができるんです?」
この質問には、ジェリオが答えた。
【ジェリオ】「一言で言やぁ『契約した者に力を与える』ってとこか。
契約すりゃ漫画やゲームでお馴染みのドドーンでドカーンな特殊能力が与えられるって寸法よ。」
【宮坂】「どどーんで、どかーん…」
【クレーヌ】「…まぁジェリオの擬音じゃ分かんないだろうねぇ。」
【ジェリオ】「何か言ったかクレーヌ!」
【クレーヌ】「何度でも言おうか?」
【宮坂】「まぁまぁ、抑えて抑えて…」
ぶつかりそうになったところを宮坂が抑える。
【二本松】「…で、契約するにはどうすりゃいい訳?契約書にサインすりゃいいの?それともどっかの漫画みたいにキスでもしろと?」
【五十嵐】「き、キス!?いくらチャオとはいえキスとか勘弁して下さいよ!?」
【???】「いえいえ、単純に…互いに触れれば、それで契約成立となります。
本来は儀式みたいなものがあるのですが、事情が事情ですので、こちらで済ませておきました。」
【五十嵐】「そりゃありがたいね!それじゃ早速…」
【宮坂】「うん。」
【二本松】「ええ!」
…3人と3匹が、互いに握手する形で触れた瞬間。
———再び3人の眼前は、暗転した。
【3人】「!?」
【二本松】「契約した…んだよね!?」
確かに3人には、3匹のチャオの感触が残っている。確かに「契約」は成立しているはずである。
しかし、目の前には、誰もいない。
…その時、1人の椅子に座った女性がぼんやりと姿を現した。
黒い長髪だが、顔はぼやけていてよく見えない。
【宮坂】「あなたは…さっきの人?」
宮坂はその女性を見て「さっきまでの声の主だ」と思い声をかけたが、返ってきた答えは全く違うものだった。
【女性】「とんでもない。あんな女と一緒にしないで欲しいわね…
…私は『管理者』よ。もっとも、あの女からは『魔女』なんて呼ばれているけどね。」
【二本松】「魔女ですって!?」
そう、『魔女』本人が現れたのである。咄嗟に構える3人。
【魔女】「まぁ、そう気構えしないことね。この姿はいわば幻影。貴方たちの攻撃は通じないわ。
それと同時に、こちらから攻撃することも不可能…」
椅子に座り微動だにしない彼女の姿は、なるほど『魔女』と呼ぶに相応しい。
しかしながら、声などにはまだ若さも見える。20歳前後だろうか。
少しの間沈黙が流れるが、二本松が口火を切った。
【二本松】「…順番に聞くわ。世界を侵食したのはあなた?」
【魔女】「まぁ、そういうことになるかしら?」
【五十嵐】「なぜこんなことをした?」
【魔女】「現実に絶望したから…かしらね。」
すると『魔女』はゆっくりと立ち上がり、こう切り出した。
【魔女】「貴方たちはおかしいとは思わないかしら?
…素晴らしいのに売れない作品がある。
…努力したのに報われない人間がいる。
…才能があるのに埋もれてる人間がいる。
…正しいことなのに評価されない事柄がある。」
【宮坂】「つまり、それを変えるためにこんなことを…?」
【魔女】「ええ。その『結果』があの世界よ。」
【五十嵐】「…なるほど確かにそんな世界は変えなければいけませんねぇ。」
【二本松】「五十嵐!?」
その言い方に驚いた二本松。だが、「裏切った」訳ではなかった。
【五十嵐】「だがそれは『正当な手段』によって変えるべきだ!こんな方法は間違っている!」
しかし、『魔女』はその叫びをあしらうようにこう言った。
【魔女】「…甘いわねぇ…
そんなやり方で世界を変えるには、余りにも世界は大きすぎる…」
【二本松】「世界のサイズなんて関係ないわ。まずはあたしらが『貴方の世界』を変えてみせる!」
いずれにせよ、今変えなければいけないのは、『現実の世界』よりも、『魔女の世界』の方である。
『魔女の世界』を元に戻さない限りは、現実を変えることはできないのだから。
【魔女】「威勢だけはいいわね…そういえば私もそんな頃があったかしら…?」
そう言うと、ゆっくりと再び椅子に座った。
【魔女】「まぁいいわ。変えてごらんなさい、この世界を。
但し、私のところまで辿り着けるならば、ね。」
そう魔女は言い残すと、ユラユラと姿がぼやけ始め、やがて消えた。
再び、視界には3人の姿しか映らなくなる。
…やがてその3人の姿も、だんだん薄くなり………
「夢!?」
次に彼らが気がついたのは、ベッドの上である。午前7時。
<続く>