≪その3≫
≪その3≫
時間は放課後、いつもの生徒会室。やっぱり今日もいつもの3人である。
【宮坂】「今日の議題、とくになし…っと。」
【二本松】「なんかつまらないわねぇ…」
【五十嵐】「まぁ、何もないのが一番ですよ。」
そう言うと、かばんからPSPを取り出し、遊びだした。
【二本松】「…よりによって副会長が生徒会室でゲームやりだしますか?」
【五十嵐】「『1年前』までならいざ知らず、今は休み時間なら小学生だって公然とやってますよ。」
【宮坂】「そういえば、1年ぐらい前からですね…授業中じゃない限り学校でゲームしても怒られなくなったのって。」
そこで、二本松が思い出したように尋ねた。
【二本松】「ところでそれ何のゲーム?」
【五十嵐】「これですか?ファンタシースターポータブル2ですよ。」
【二本松】「…ならいいけど。チャオ小説なのにモンハンでもやってたら吹っ飛ばすわよ。」
【五十嵐】「わざわざチャオ小説の中でやりませんよ…」
【二本松】「…それにしても、あの夢は何だったのかしら…?」
ふと、二本松がこぼす。
すると、
【2人】「「夢?」」
五十嵐と宮坂が、同時に聞き返した。
【二本松】「いやね、闇の侵食がどーとか、魔女がどーとか…」
闇の侵食。そして魔女。その『キーワード』に、2人が驚く。
そう、2人も全く同じ『夢』を見ていたのだ。
【五十嵐】「夢だけど…夢じゃない!?」
…としか、考えられなかった。
【宮坂】「でもあれが本当だとして…結局私達、契約して何の力を手に入れたんでしょう?」
【五十嵐】「そういえば契約した瞬間に魔女の邪魔が入ったんでしたっけ…」
と、その時、生徒会室のドアをコンコンと叩く音がした。
【二本松】「どうぞー?」
ガラリと扉を開けて入ってきたのは、図書委員長の荻野優子[おぎの・ゆうこ]。
今年の1月に転入してきた、ロングヘアーに丸眼鏡が目印の成績優秀な女の子である。
外見によらず性格は割とサバサバしていて、人気者である。転入生がいきなり委員長をやることになったのは、この人気が背景にあった。
【宮坂】「荻野さん、どうかしましたか?」
【荻野】「突然ですが問題です。あたしが転入してきたのはいつでしょう?」
【二本松】「えっと、今年の1月じゃなかったっけ?そろそろ1年ってことか。」
【荻野】「続いて第2問。あたしはアンタ達3人が闇の侵食に対抗する力を持っていることを知っている。…これが示す意味は?」
その瞬間、3人の言葉が止まった。
それとほぼ同時に、荻野は両手をポケットに突っ込むと、次の瞬間には数本づつナイフが握られていた。
【五十嵐】「魔女の刺客だっ!!」
五十嵐が思わず叫ぶ。そしてそれと同時に、荻野はナイフを1本投げつけた。
ナイフは五十嵐の方へまっすぐ向かい、咄嗟に五十嵐が盾にしたPSPに突き刺さった。当然PSPは液晶が砕け、もうゲーム機としての機能はない。
【荻野】「全問正解、よくできました。これがどういう意味か、分かるよね?」
【宮坂】「まさか…荻野さん、『実在する人間』ではない…!?」
【荻野】「正解。『管理者』———アンタ達が言う『魔女』———がこの世界を闇で侵食した時に、あたしは『造られた』んだよ、管理を手伝うためにね。」
だからこそ、『今年の1月に転入した』のである。
【荻野】「あたしみたいに『造られた』人間は結構いてね。闇の侵食で生まれた人間だから『闇人[ヤミビト]』って言うんだけどさ。
闇人の役割は大きく分けて2つ。『管理者』の世界の管理の手伝いと、もう1つ…アンタ達みたいな『反逆者』を消すこと!!」
そう叫ぶと、ナイフを3本、3人に向かって投げつけた。
3人が反応するより早くナイフは3人へ向かい、3人が覚悟したその瞬間———
目の前に、3匹のチャオがいて、バリアのようなもので3人を守っていた。
【二本松】「フレイナ!」
【五十嵐】「ジェリオ!」
【宮坂】「クレーヌ!」
そう、3人と契約した3匹である。
【ジェリオ】「ふーっ、危ねぇ。ギリギリセーフってとこか。」
【クレーヌ】「それにしても、魔女側もことごとく邪魔してくれるわねぇ。」
【フレイナ】「契約はギリギリ成立してますし、今もギリギリ間に合いましたし、何とかなるわよ。」
【荻野】「ちっ!『あっちの世界』のチャオか!」
荻野が軽く舌打ちをする。
【クレーヌ】「さてと、これからはアンタ達の番だよ!宮坂!」
【宮坂】「は、はい!?」
【クレーヌ】「アンタの能力は『障壁』。まぁつまりバリアね。念じれば出てくるわ。」
【宮坂】「ね、念じれば!?」
次の瞬間、荻野が更に1本ナイフを投げてきた。…が、次の瞬間、ナイフはカランと音を立て、床に転がった。宮坂が防いだのである。
【クレーヌ】「上出来じゃない!」
【宮坂】「これが…私の力…!」
【ジェリオ】「続いて五十嵐!てめぇだ!
てめぇの能力は想像したものを創造する、つまり『想造』だ!」
【五十嵐】「ほほう?」
【ジェリオ】「漫画でもゲームでも構わん!トンデモ武器を『想造』しやがれ!
…但し『想造』したものをどう扱うかはてめぇ次第だがな!」
確かに、いくら伝説の剣を『想造』したところで、使い手が素人ではどうにもならないのだ。現実世界は攻撃力では測れない。
【五十嵐】「なるほど…だったら銃の方が楽そうですね!」
そこで咄嗟に、何かいい銃はないかと考える。…そこで思いついたのが、目の前に落ちていたナイフが刺さって液晶が砕けたPSPだった。
【五十嵐】「…こいつだっ!」
…そう、ファンタシースターポータブル2。幸い(?)にもこのゲーム、銃の種類が多彩である。
次の瞬間、五十嵐の右手には拳銃サイズの銃が握られていた。
【二本松】「…って、ヤスミ2000H!?」
ヤスミノコフ2000H。たまたまさっきゲーム内で五十嵐が出した武器である。
【二本松】「どうせならレーザーとかグレネとか出しなさいよ!このゲームいっぱいあるじゃない!」
【五十嵐】「さすがにそういうのは扱いにくそうだと思ったんでね…!」
【荻野】「…そんなちゃっちい銃でナイフを止められるとでも!?」
荻野はそう言い、ナイフを数本投げる。…しかし、
【宮坂】「私の存在、忘れてませんよね…?」
宮坂の『障壁』で全て叩き落された。
【荻野】「しまっ…!
まぁいっか、どっちにしろ素人が銃持ったって当たるハズがないしね!」
銃に対する場合の基本戦術、相手の懐に飛び込む。ましてや荻野は接近戦でも戦えるナイフ使いである。
一気に距離を詰めようとこちらへ向かってくる。
【五十嵐】「最初から生身の人間に当たるなんて思ってませんよっ!」
そこに五十嵐が数発、ダンダンダンと低い音を響かせながら撃ちこんだ。
…但し、五十嵐が狙ったのは荻野ではない。生徒会室にある本棚である。
【荻野】「!?まさか…っ!」
下の方を撃ち抜かれ、バランスを失った本棚は、荻野と3組のちょうど間の辺りへと倒れてきた。
ドォン、と本棚が倒れる音が響き、埃が舞う。視界が一気に悪くなり、互いが見えなくなった。
【フレイナ】「さぁ、決めますわよ!二本松さん、あなたの能力は『破壊』!
触れた者を念じれば破壊することができるという分かりやすい能力です!」
【二本松】「それはありがたいわね!…行くわよ!!」
【荻野】「げふっ、げふっ…こんな手を…!?」
埃だらけだった荻野の視界に飛び込んできたのは、思いっきり飛び込んでくる二本松の姿であった。既に反応できる距離ではない。
【二本松】「いいわ、アンタ達がこれで世界を変えたつもりになってるなら…まずはそのふざけた幻想をブチ殺す!!」
ズドォン、と再び重い音が響くと同時に、ようやく生徒会室を覆っていた埃が晴れてきた。
3組のペアの前には荻野の姿はなく、ただ数本のナイフと壊れたPSP、そしてメガネが落ちていた。
【宮坂】「勝った…んだよね…?」
【五十嵐】「恐らくは…
会長の決め台詞に聞き覚えがある気がするのはこの際いいとしておきましょう…!」
…それにしても、派手にドンドンとやってしまった3人。このままでは他の生徒や先生たちが駆けつけるのは時間の問題である。
【二本松】「…逃げるわよ!この学校にいる『闇人』だって荻野さん1人とは限らないわ!」
その合図と共に、全員生徒会室の窓から脱出。そのまま走り、校門から校舎の外へと向かっていった。
【宮坂】「…ふぅ、とりあえず学校の外まで来れば…」
【五十嵐】「それにしても、これで『世界の敵』ですよ…これからどうするんですか!?魔女の居場所だって分かりっこないですし。」
【二本松】「ゲームの勇者よろしく魔女を探して世界中を冒険なんてどうかしら!?」
【フレイナ】「魔女の居場所などについては、こちらでできる限り調査します。とりあえずは、『闇人』から逃げつつ戦うことになるでしょう。」
【五十嵐】「こりゃ本格的にゲームみたいになってきましたね…!」
そこに、1人の男が現れ、3組の前に立ち止まった。
【???】「…そう、これはゲームだ。そして、ゲームであると同時に、『現実』でもあるのさ。魔女はそういう世界を望んでいる。」
見ると、なかなかの美男子。
【二本松】「こいつ、『今年の1月』に突如デビューした人気モデルじゃん…まさかっ!」
…そう、2人目の『闇人』。
彼らの戦いは、まだ始まったばかりである。
≪おわり≫