Little Strange World ~少し変わったこの世界で~

とある高校の、生徒会室。
いよいよ冬休みも差し迫ったこの時期だが、生徒会のやってることはいつもと大差ない。

「で、今日の議題は?」
「麻雀部の設立要望が多数届いてる件についてです」
「…またオタク連中?ったく、3ヶ月ごとに嫁を変えるような人達につきあってられないわ。却下却下。」


            Little Strange World ~少し変わったこの世界で~


「この前やっと軽音楽部の部員急増問題にようやく対処したばかりですよね…?」
「ええ…夏休み明けには『15527回目の夏休みがどうたらこうたら』って騒いでたし…」
「『あの日』以来ですよね、何かがおかしくなったのは」

あの日。

去年の12月23日、『何か』が起こった。
…しかしながら、具体的に『何が』起こったのか、その実態は誰も知らない。
だが、その日以来、確かに『何か』がおかしいのだ。

具体的には、何やらオタク風味な人々が少しばかり増えたのと、ぷるぷるでぽよんぽよんな生き物『チャオ』が、少しばかり目につくようになったこと。
なぜそうなったのかは誰も知らないし、1年経った今では最早誰も気に留めなくなっていた。

オリコンチャートはアニソンが毎週入れ替わるように1位を取り、視聴率の上位は常にアニメ番組。ベストセラーもライトノベルが上位を独占している。だけど、誰も疑問に思わない。
そんな「少し変わった世界」ではあるが、結局普通に生きている分には何も問題がないのだ。


さて、生徒会室では、いつもの会議が続いている。
「とはいえ、1年前ならいざ知らず、無視できない要望の数ですよ?」
この声は副会長、五十嵐智也[いがらし・ともや]。
「そういえば、昔ウチにはとんでもない部活があったとかなかったとか…」
こっちが書記の宮坂愛美[みやさか・まなみ]。唯一の2年生。
「あぁ…『あれ』のことね…」
で、これが会長の二本松優子[にほんまつ・ゆうこ]。

生徒会の主要メンバーは他にも数人いて合計7人になるが、今日この場にいるのはこの3人である。
他の4人は都合がつかずに今日は欠席…というのは表向きの事情で、つまるところ、ほかの4人はサボり。しかも、ほぼ毎回。
結局、いつも生徒会室に集まって生徒会の仕事をやっているのはこの3人だけである。


【宮坂】「『あれ』って…?」
【五十嵐】「あぁ、2年だと知らないかなぁ。ウチらが入学する前の年まで、凄い部活がありましてね…」
【二本松】「『チャオ同好会』だったかしら?同好会だから厳密には部活じゃなかったんだけども。」
そこで宮坂が聞き返す。
【宮坂】「え?チャオ同好会って…チャオかわいいですし、普通じゃないんですか?」
【五十嵐】「2009年ならな。その部活があったの、2007年だぞ?」
そこまできて、宮坂はようやくその『物凄さ』を理解した。

つまるところ、去年(2008年)の12月23日に『何か』が起こるまでは、チャオはマイナーなゲームキャラでしかないのだから。
それより前にチャオに関する部活があるということがどれだけ異常なことであるかは、言うまでもないことである。
なお、チャオという生き物が現実に存在するようになった現在では、チャオ関連の部活がある学校も珍しくない。

【宮坂】「でも…今のウチにはチャオ同好会、ないですよね?」
【五十嵐】「まぁ色々あってな。元々存在自体がその頃としてはありえない部活でしたからねぇ」
【二本松】「部室棟も配置換えになったし、もう当時の痕跡みたいなのは残ってないんじゃないのかしら?」

…と、ここまで二本松が話したところで、あることに気がついた。
【二本松】「痕跡…ちょっと待って、ひょっとしたら!」

生徒会室には、生徒会で使うためのパソコンが1台ある。5年ぐらい前のもので性能は決してよくない(OSもXPである)が、プリントを作ったり学校のHP を更新する程度なら何の支障もない。

二本松が気がついたのは、『そのパソコン』である。彼女は立ち上がり、パソコンの置いてある机へ向かった。
【五十嵐】「パソコン?そういえばそれ、厳密には学校の備品ではないと聞いたことがあるような…」
【二本松】「ええ、あたしの記憶が確かなら、このパソコン、前はそのチャオ同好会が使ってたもののはずよ。色々あって今は生徒会室にあるけど…」
そう言いながら、パソコンのスイッチを入れた。

起動するまでの間、数分。
五十嵐と宮坂も立ちあがり、二本松の後ろからパソコンを覗き込む位置に移動した。

【二本松】「当時のファイルとか奥に残ってないかしら…?」
と、カチカチとマウスを動かす。
【五十嵐】「下手にいじって壊すとかやめて下さいよ…?」
という五十嵐の心配をよそに、どんどんと奥のフォルダへと向かっていく。


しばらくして、二本松の右手が止まった。
【二本松】「ん…?」
そこにあったのは、『20081223.txt』という簡単なメモ帳でのテキスト。
言うまでもなく、ファイル名は『あの日』の日付である。
【宮坂】「あの日の日付…?」
【二本松】「これよ!」
彼女は一言そう言い切ると、そのままダブルクリックした。

===
これを残すかどうか迷ったが、将来誰かがこれを見てくれることを願って、ここに書き残す。


俄かには信じられないかもしれないが、今この世界は、『闇』によって侵食されている。
恐らくこれを誰かが見てる頃には、既に侵食は終わっているはずだ。
つまり、これを見てる君達がいるのは、『闇の世界』ということになる。

『闇に侵食されたって?この世界は何もおかしくはないじゃないか』って言うかもしれない。
でも、ちょっと考えて欲しい。
今君達がいる世界は、本当に『何もおかしくはない』か?

きっと何かが少しおかしいはずだ。
具体的にどこがおかしいのか、というのはこれを書いている俺には分からないが、そう、例えば、チャオっていう生き物が普通に生息してないか?

………思い出せ。その生き物は、2008年の12月23日まで、『存在していなかった』はずだ。

誰が『闇の侵食』を仕掛けたのかは分からない。某国の陰謀かもしれないし、あるいは宇宙人の攻撃かもしれないし、ひょっとしたら偶然に偶然が重なって侵食が発生しただけかもしれない。

そして、これを読んだ君達がどう行動するのかも自由だ。
『おかしい世界』を正すのか、それともその『おかしい世界』に浸るのか。
だが、知っておいて欲しい。今君達がいるのは、『おかしい世界』だという事を………

2008/12/23 名も無き南高生徒
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最後まで読んだ後も、3人はしばらく言葉が出なかった。


しばらくして、二本松がようやくゆっくりと口を開く。
【二本松】「えっと…これ…性質の悪いイタズラ…よね…?」
【五十嵐】「一応最後の更新時間は去年の12月23日ですけど…どうなんでしょう?」
【宮坂】「こ、怖いです…」
それに応えるように、五十嵐と宮坂もポツリと感想をつぶやく。

辻褄が合うだけに、怖いのだ。
確かに、去年の12月23日に『何かが』が起こって、それ以来、この世界に本来いなかったはずの「チャオ」という生き物が現れた。
具体的に何が起きたのかはよく分からないし、誰も知ろうとしない。そもそも調べたところで何も分からない。
だが、もしこの文章が本当ならば、説明がつくのだ。


再び、しばらくの沈黙。

それを破ったのは、再び二本松だった。
【二本松】「ええい、やめよやめ!大体仮にこれが本当だとしても、ただの高校生のあたしらに何ができるってのよ!」
【五十嵐】「それもそうですね…正すって書いてありますけど、じゃあどうすればいいのか書かれてませんし…」
【宮坂】「とりあえず、今日はもう遅いですし、解散、でいいですか?」
【二本松】「そうね。これ以上生徒会室で喋ってたらそのうち『ドラマCDで十分』とか言われかねないわ。」
【宮坂】「そもそもメディアが違いますから…」

そんなこんなで、この日の生徒会は終了。
パソコンをシャットダウンした後、3人とも荷物をまとめて、生徒会室を出て行った。

≪続く≫

このページについて
掲載日
2009年12月23日
ページ番号
1 / 3
この作品について
タイトル
Little Strange World ~少し変わったこの世界で~
作者
ホップスター
初回掲載
2009年12月23日