第6話・陥落 ~前編~
そして、「その日」がやってきた。
『ニステル周辺にて待機している全軍に命令、明朝08:00に一斉攻撃』
既にニステル周辺100kmのところで包囲、独裁者の逃げ場はない。
「聞くところによると、あの独裁者には豪華趣味があるそうですわ。
だから一般人になって逃げるような真似はしないでしょうね。」
奈々は言った。
『ニステル郊外のチャオ収容所だけは攻撃するな、我々には「チャオ解放」という大義がある』
「ノラもいくのら!」
「ララも!」
「・・・そうか、一緒に頑張ろうな。」
賢一は2匹のチャオ姉妹に答える。
そして、翌朝08:00。
決戦が、始まった。
「壊れた虹の向こう」第6話 『陥落』
次々と発進する人型兵器。
空には戦闘機が舞い、地上では戦車が突き進む。
目標はただ一つ、「独裁者」大川賢が住む巨大なタワー。
高さは500mで、「チャオ差別主義の象徴」と言われていた。
(500mもあるなんて・・・東京タワーを考えたらとんでもない高さだな。)
賢一は人型兵器の中でそんな事を考えながら、移動する。
やがて、眼下に広がる景色は青一色の海から、陸に変わった。
ここからは失敗は許されない。
前回の出撃で撃墜された時は、海だったから軽傷で済んだものの、
仮に今回同じような目に遭ったら地面に激突して即死である。
ヤヌスとて、軍隊は無力ではない。タワーの死守に全力である。
一直線にタワーに向かったステーションスクエアの戦闘機は、ほとんど撃墜されてしまった。
遠くから撃つミサイルも、次々と撃ち落とされる。
その様子を見ていた賢一は思った。
「こりゃ面倒な事になりそうだな・・・1機づつ撃墜かぁ。」
そう考えているうちにも、戦闘機が攻撃を仕掛ける。
彼は落ち着いて回避し、マシンガンを撃ち込んで撃墜させた。
地上軍もニステル市街地直前で足踏みを喰らう。
タワーまで残り20km、という場所である。
しかしながら、兵力の差は如何ともしがたい。
徐々に、ニステルへと前線が動き出す。
その頃奈々は、戦艦で戦況を見守っていた。
「・・・チャオ差別主義のために、ここまで・・・
独裁者の考える事は、分からないわね・・・」
とつぶやきながら。
「うおおおっ!!!」
賢一は、気がついたら絶叫していた。
次々とヤヌスの戦闘機を撃墜する。
だが、相手も必死。なかなかキリがない。
と、その瞬間だった。
ふと真下を見ると、真っ黒で巨大なリムジンが、タワーを出て西へ向かうのが見えた。
「あんなリムジン、乗るとしたら・・・大川!?」
彼はそう判断し、弾幕をかいくぐり、後をつける事にした。
(後編へ続く)