第5話・戦争

あれから、何日経ったのか、彼は知らない。
とにかく、目が覚めた。

どうやら、戦艦の医務室のようだ。

「・・・ん・・・」
「あ、気づきましたわね。」
奈々が部屋で本を読んでいた。
小さな声だったが、すぐ反応した。

「・・・死んでないのか、俺・・・」
「ええ、幸い軽傷ですわ。あと数日もすれば歩けるでしょう。」


             「壊れた虹の向こう」第5話 『戦争』


「賢一、気づいたのら!」
「よかったらら~!!」
ノラとララも一緒である。

「戦争の方は・・・どうなった?」
気になって、聞いてみた。
「段々とヤヌスの首都、ニステルに近づいてます。チャオ解放も進んでいますわ。」
「なら、いいんだけど。」

「・・・どうですか?『戦争』の感想は・・・」
いきなり、彼女が質問してきた。
しかも、難しい内容の質問である。
答えに困った。

「・・・いや、よく分からねぇ。
 でも、多分みんな分からないまま戦うんだろうな・・・って。」
「確かに、そうですわね。
 確固たる考えを持って戦う人なんて、ほとんどいませんよ。
 それに、軍隊というのは組織ですから・・・」

「・・・悪いけど、一人にさせてくれないか?気を使ってしまうし・・・」
彼はそうお願いした。
「・・・ええ、分かりました。
 そういえば、賢一さんがこちらの世界へ来てからほとんど私と一緒でしたね。ごめんなさい。
 ・・・ノラ、ララ、いきましょう。」
奈々はノラとララを連れて部屋を出た。

部屋の外で、彼女は一言。
「やはり、いきなりあの質問は酷でしたわね・・・」


一方賢一は、ふとした疑問が浮かんでいた。
「・・・俺は、元の世界に戻れるのか?」

あの謎の光のせいでこちらの世界に来たのだから、また光がくれば戻れる可能性はある。
しかし、また全然別の異世界に飛んでしまうかも知れないし、帰れても時代が違う、なんて可能性もある。
そもそも、光がまた来るのかどうかすら分からない。

仮に光が現れるとして、いつ、どこに現れるのか。
それを考えたとき、最も可能性が高いのは・・・
(いつ現れるかは分からないが、ステーションスクエアのあの場所だ!)
そう、彼が異世界に紛れ込んだその場所である。

彼は思わず体を起こしたが、まだ怪我が直っていないようだ。各所が痛む。
「ぐっ・・・!」
そもそも、ここはヤヌス沖、戦艦の中。東の海の果てにあるステーションスクエアに帰れるはずがなかった。



数日後。
怪我の回復は順調で、何とか人並みの生活ができるようになった。
食堂で奈々、それにノラとララと一緒に食事をしていた。

「・・・そうそう、ニステルへの攻撃、そろそろみたいですわ。
 軍司令部の発表で、ニステルへ向かう最後の峠の攻略が始まったらしいですし。」
「へぇ、そうなのか。なんか、あっという間だったな。」
「前も言ったような気はしますが、勝つ見込みがないのなら戦争なんてしませんからね。」
「そろそろ帰れるのら?」
「ええ、時間の問題ですわね。」
「やったらら~!!」
「こらこら、大声を出さない。静かにしないさい、ララ。」
「はいらら・・・」
「・・・そうだ、頼みがあるんだけど。」
賢一が口を開く。
「・・・ニステルの攻略戦、俺も参加できないかなぁ?」
奈々にしてみれば意外である。
戦争に参加することを拒んでいるようにも見えた賢一が、初めてといっていいほど自分から「戦う」と言ったのだ。

「そうですねぇ、今からニステル沖にこの戦艦を移動するまでの時間と、陸軍が最後の峠を攻略するのと、どちらが早いか。
 それ次第のような気がします。
 ですが・・・また、なんで?」

だから、その理由を聞いてみた。
答えはこうだ。
「いや、たいした事じゃないんだが、自分が関わった戦争のケリがつく瞬間が見たいって、それだけ。」

「・・・分かりました。間に合うかどうかは分かりませんが、ニステル沖に移動するようにお願いしておきます。」
「ああ、ありがとう。」

彼は、密かに決めていた。
(俺と同じ名前の独裁者・・・必ず俺が討つ!)

                              続く

このページについて
掲載号
週刊チャオ第83号
ページ番号
6 / 9
この作品について
タイトル
壊れた虹の向こう
作者
ホップスター
初回掲載
週刊チャオ第80号
最終掲載
週刊チャオ第85号
連載期間
約1ヵ月5日