第4話・開戦 ~前編~

ステーションスクエアの西の海の果てにある国、ヤヌス。
チャオ差別主義から解放するための戦争が、ついに始まった。

ヤヌスから数十Km沖。
ステーションスクエアの艦隊と、ヤヌスの艦隊が大海戦を繰り広げていた。

海では戦艦が火を噴き、空では人型兵器が舞う。
戦局はステーションスクエア側にやや有利か。

そして、ステーションスクエア側のとある戦艦の中・・・・


             「壊れた虹の向こう」第4話 『開戦』


「・・・やっぱり、ヤヌスも人型兵器を持ってましたわね。
 性能はあまりよくないようですけど・・・」
と、相原奈々はつぶやく。
「・・・ったく、艦隊戦なんて俺の世界でも時代遅れなのに、なんでこんなところで・・・!!」
相原賢一(本名、大川賢)は嘆く。
それに奈々は答えた。
「いや、これは『うわべだけの戦争』ですわ。本国からミサイルが次々と発射されていますので、確実に攻略はしてます。心配なく。」

奈々は今、交代での任務の為休憩時間である。
窓の外からは、相変わらず低く響く音と衝撃がやまない。
ノラとララは、被弾箇所の修理を行っているという。

「ところでさぁ、疑問な事がいくつかあるんだが。」
賢一が問い掛ける。
「『チャオ解放の為の戦争』ならば、チャオ部隊の数が多いのが自然だと思うんだが。
 俺が見た限りでは人間の方が多かったような・・・」
「『独裁者』大川は、極端なまでのチャオ差別主義者です。
 この戦争がチャオ解放の為と分かれば、彼がチャオの大量虐殺を始める可能性があります。
 ですから、わざと前線の兵力の大半は人間で占めさせています。
 ですが、本国で遠距離ミサイルの発射などを受け持っているのは、チャオの方が多いんですわよ。」

「そうか・・・それともう1つ。反対運動とかって、起きてないのか?
 あっちの世界じゃ、戦争やる度に「平和を」とかでデモ行進する人達がいるけど。」
「ええ、もちろんいますわ。
 ・・・でも、『チャオ差別主義者』と言ってしまえば済む話。すぐに黙ってしまいますよ。」
彼女のそんな何気ない鋭い言葉に、彼は驚く。
「そ、そんな・・・」
彼女もそれに気づいたらしく、慌てて付け足した。
「・・・あ、ごめんなさい。実は私、軍に入る時、『世襲反対』とかって反対されたくちで。
 だから、ああいうの、嫌いなんですよ。」
「へぇ~、そりゃまぁ、誰だって自分に対して反対運動されたら、いい気はしねぇな。」

その瞬間、艦が大きく揺れる。弾が当たったようだ。

「船酔いしなけりゃいいんだがな・・・」
少なくともバスや列車で酔った経験はない彼だが、船に乗るのは初めてである。

「あ、そうだ。」
彼の何気ない一言を聞いた奈々が、何かを思い出した。
そして、その次に彼女から発せられた言葉は、賢一にとって思いもよらないものだった。
「出撃・・・、してみます?人型兵器で。
 1機、余ってるんです。」

その言葉を聞いた彼は、とっさに、
「お、俺を殺す気かぁっ!!」
と叫んだ。完全に条件反射の域である。

「ご、ごめんなさい。でも、ちょっとやそっとじゃ墜落しませんし、マニュアル、暇な時に読んでたでしょ?」
「ま、まぁな・・・」

彼は別に人型兵器のマニュアルを乗るために読んだのではなく、単なる暇潰しに読んだだけだったのだが、長い船上暮らし、一通り操作は覚えてしまっていた。

(まぁ・・・、あっちの世界のアニメとかに出てくるビーム兵器はまだ実用化されてないみたいだし・・・)

しばらく彼は考え込んだ。
かれこれ10分は考えただろうか、その結論はこうだ。

「ああ、出てみるよ。
 仮にこっちの世界で死んでも、それは運命だったんだ、多分な。」
「・・・そうですか。では、頑張って下さいね。」

彼女はそういい、見送った。
そして、一人しかいなくなった部屋で一言。
「・・・そう、彼は死なないわ。きっと・・・・・」


「えっと、これが前進で、これがバックかぁ。」
出撃前のコクピットで、操作方法を確かめる。
そして。

『ヴィクトリー6号機、発進!!』

アナウンスと共に、彼、相原賢一は戦場へと出撃した。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第82号
ページ番号
4 / 9
この作品について
タイトル
壊れた虹の向こう
作者
ホップスター
初回掲載
週刊チャオ第80号
最終掲載
週刊チャオ第85号
連載期間
約1ヵ月5日