第2話・独裁
彼女の家で、詳しい話を聞いた。
彼女の名前は相原奈々、17歳。
父親が軍の司令官だそうで、その関係で自身も軍籍にあるという。
もっとも、籍があるというだけで、軽い訓練だけで普段は普通の高校生と変わらない。
そして、この街の名前は、「ステーションスクエア」―――――
大川が聞いたこともない名前の街だった。
「壊れた虹の向こう」第2話 『独裁』
「そういえば、あなたのお名前をまだ聞いていませんでしたね。聞いても宜しいですか?」
相原が聞く。
「ああ、俺か。大川賢、ってんだ。」
彼が名乗ると、彼女は何故か一瞬ためらったが、
「大川賢、ですか。」
と普通に答えてみせた。
彼は気になり、ためらった訳を聞き返すと、彼女はこう答えた。
「大川賢・・・偶然でしょうが、この世界にも同じ名前の人がいるんですの。
・・・しかも、有名な人がね。」
「有名人?歌手とか、芸人とか、その類か?」
「いいえ、非常に言い辛いんですが・・・・
・・・独裁者、なんです。」
「ど、独裁者?」
2人の会話以外は、ノラとララが部屋を駆け回っているだけで、ほぼ何も聞こえない。
夕焼けに染まる部屋。
さすが軍司令官の家、豪華である。
高そうな絵画や陶器が並び、座っているのは高級ソファである。
彼女の話はこうだ。
「西にある海の果てに、ヤヌスという国があります。彼はその国の独裁者です。
彼はチャオ差別主義をとり、数百万匹のチャオを奴隷として扱い、それ故に国際的に孤立しています。
マスコミは、チャオ解放の為のヤヌス攻撃を早く、と叫びますが、戦争というものはそう簡単ではありませんからね。」
「んじゃ、こっちから見れば根っからの悪役、って訳かぁ。」
「そうだ、独裁者と同じ名前ってのも難がありますから、この世界では仮名を使いましょう。
そうですねぇ・・・私の親戚って事で、「相原賢一」でどうですか?」
いきなりの提案である。
だが、独裁者や悪者と同姓同名というのは誰でも気に入らないものである。その提案を受け入れる事にした。
「では、これからは「賢一さん」と呼ばせて頂きます。
・・・それと、貴方の世界に戻れるまでは、ウチでゆっくりしていって下さいね。
いつかきっと、元の世界に戻れると信じてますから。」
「あ、ありがとう。」
しばらく静かになったので、奈々は話題でもないかと、テレビをつけた。
その内容は・・・
『臨時ニュースをお伝えします。政府筋によりますと、軍の一部がヤヌス攻撃計画を立てており、既に準備段階に入っているとの事です。
繰り返しお伝えします。・・・・・』
「・・・あら、漏れてしまいましたか。」
彼女はそうつぶやいた。
「漏れたって・・・計画、知ってたのか?」
「ええ、一応。父親が父親ですからね。」
「さっき、『戦争というものはそう簡単ではない』って・・・」
「私が計画に関わってる、という訳ではありませんので。
・・・ただ、ヤヌスという国はチャオ差別主義を守るため、軍事力はかなりある、と噂されています。
正確なところは未知数ですが・・・」
「・・・で、勝てるのか?こちらは。」
「・・・普通、勝つ見込みが無ければ、戦争なんてしないものです。
そうでない場合は、よっぽどの大義があるか、よっぽど狂気なのか、どちらかですわ。
・・・まぁ、勝ちはしますでしょうけど、多少の犠牲は避けられない、というのが大方の予想です。
ただ、「チャオ解放」という大義があるため、多少不利でも開戦に踏み切るでしょうね。」
「・・・なるほど・・・
俺がいた国ってのは、軍というものを持たなくてな。誰も戦争のことなんぞ考えちゃいないよ。
・・・悪いな。俺もそうだから、戦争とか平和とかいうのはよく分からねぇし。」
「いいえ、私達の国でも、軍に関係ない大多数の人はそうですよ。
最近は、戦争をするといっても本国が被害に遭う訳ではありませんし。」
「ふ~ん・・・」
戦争とは何か。
そんな事は今まで考えもしなかった彼だが、今の話でちょっと分かったような気がした。
「・・・そうだ、明日、『ある場所』へ案内しますわ。
きっと、面白いものがあると思いますよ。」
彼女の誘いに、彼は応じた。
そこで、ノラとララが首を突っ込む。
「明日、お出かけなのら?」
「ララ達も一緒に行けるらら?」
「ええ、一緒に行きましょう。楽しい日になるといいですわね。」
続く