第1話・異世界
街を行く。
無限に広がるかのように見える街。
そこを歩いていく、やはり無限にいるように見える人々。
彼には皆が皆、魂が抜けているとしか思えなかった。
「壊れた虹の向こう」第1話 『異世界』
彼の名前は大川賢、19歳。大学1年生だ。
そんな事を思ってふと、横断歩道のど真ん中で立ち止まってみるが、すぐに歩き出した。
「他の人から見れば、俺も魂が抜けてるように見えるんだろうな・・・」
そう思いつつ。
歩く。さらに歩く。
今日この街に来たのには、別に用がある訳でもなく、ただ「なんとなく」であった。
この街はそういう魅力を持っていると、彼は思う。
その時。
裏通りへ入る道から「何か」を感じた。何かはよく分からない。
しかし、他の人々は相変わらず魂が抜けたように歩き続けてるから、自分だけだろう。
彼はそう思いつつ、誰もいない裏通りへ足を踏み入れた。
その瞬間。
眩しい光が、彼を覆う。
思わず目を閉じた。
「うわぁっ!」
叫んではみたが、誰も来ない。
そのまま、意識が薄れていく・・・
・・・どれくらいの時が経ったのであろうか。
彼は目が覚めた。
辺りを見回すと、さっき歩いてた街とは、全く違う景色の街だった。
「こ、ここはどこなんだ!?」
そう思ってみたが、こんな街は彼の記憶にない。
と、その時だった。
「どうなされました?」
若い女の声だった。
びっくりして後を振り向くと、その女性と、その両脇には40cm程度の謎の生き物が2匹。
「いや、いきなり光に巻き込まれて・・・気が付いたらここに・・・」
彼がそう説明すると、彼女は答えた。
「・・・ひょっとすると、時空か次元を超えて移動してしまったのかも知れませんわ。
もっとも、私達の世界でもそんな話はまだ夢物語のはずなんですけどね。
・・・とりあえず、私の家でゆっくり話をしませんか?ここで話すのもアレですし。」
「そ・・・その生き物は・・・?」
「この両脇にいる子達の事ですか?
・・・この生き物は「チャオ」。人間が遺伝子操作によって作り出した「究極の生き物」ですわ。
自由に進化し、人間の言葉を話し、羽も持ち自由に飛べる。
・・・どうです?素晴らしいでしょう?」
そう言われて、彼は改めて「チャオ」と言ったその生き物を見た。
「ほら、ノラにララ、この人にご挨拶しなさい。」
彼女がそう2匹の「チャオ」に急かすと、
「ノラなのら。宜しくお願いしますのら!」
「ララですらら。友達になろうらら!」
順番に自己紹介する。
「では、この続きは、私の家で。」
彼女はそう言って、歩きはじめた。
これから何が待っているのか、彼にはサッパリ分からなかった。
続く