―科学の子は悪魔の子― ページ4
ビッグと分かれて、数分後。チャクロンはまだ、国には着いていませんでした。でこぼこの土の上を、地道に歩いていきます。
「この地図あってるのか? あのジジイ、歳が歳だからな。めちゃくちゃ古いの掴まされたのかも……」
握り締めた地図への信頼が揺らぎ始めたときでした。前方、それもかなり遠くのほうで、大きな土煙が上がっているのに気づいたのは。
「あ? なんだありゃ」
足を止めて不思議そうに眺めていると、その土煙が爆音と地響きを伴ってこちらに向かってくるのがわかりました。
すんごいスピードで。
「うおおっ、く、来るっ!」
ずどどどど、と近づいてきた土煙は、チャクロンの目の前で急停止しました。地面は抉り返され、辺りは土埃に包まれます。
「げほっ、げほごほがほっ!ぐおほっ!」
相当量の土埃を吸ってしまったようです。死にそうです。弱いです。
たっぷり時間をかけて土埃は晴れていき、良好になった視界の先にチャクロンが見たもの、それは……。
「……ロボット……」
だそうです。チャクロンの目の前には、一体のロボットが佇んでいました。
赤を基調としたボディカラーで、上半分だけ見れば人型ロボットのようでしたが、下半分だけ見ると車のようでした。足元には、ローラーブレードみたいな細い車輪がついています。
大きな胴体の割には、ついている腕はずいぶんと細いものでした。しかし、それより気になるのは右腕に装備した巨大な銃火器です。強そうです。
それと、胴体に書かれた『102』の数字が気になります。
「なな、ななななな」
口完全開放の間抜け面で、目の前のロボットを呆然と見つめるチャクロン。間抜けです。勇者です。
「モードチェンジ」
突然聞こえた重低音の声は、ロボットのものでした。言うと同時に、ロボットは言葉通りの行動を始めます。モードをチェンジです。
うぃぃん、うぃぃんと鳴りながら、下半分が変形していきます。三秒もしないうちに、車輪だった部分が二本の足に変形完了です。これで、完全に人型ロボットです。
「おおー、すげー」
ぱちぱちと、のんきに拍手を送るチャクロン。なんせ目の前でロボットの変形シーンが展開されたのです。変形ロボットは、男の子の浪漫です。
ですが、拍手なんかしてる場合ではないと、チャクロンはすぐさま思い知ることになります。
がしゃこん、と音が鳴ったときには、もうチャクロンの命は消滅の危機にさらされていました。ロボットが、右腕の銃をチャクロンの顔面に突きつけたのです。チャオの頭ぐらいならすっぽり入ってしまうぐらいの、大きな銃口です。
当然そんな大きな銃口から発射される弾には、相当な威力が込められることでしょう。少なくとも、チャクロンの一匹や二匹、容易に消し飛ばせるはずです。
「ごめんなさいごめんなさいほんとうにごめんなさいごめんなさいもう隣の家の柿を盗んだりしないですごめんなさいごぬんなちいごめんなさい」
もー土下座です。これでもかと言うぐらい土下座です。
いまだに小動物を一匹もキャプチャーしてない上に、身につけている装備品はジェラルド王から渡された地図のみ。勝てるわけがありません。
というか、地図を装備品扱いするなんて前代未聞です。だってほかに何も持っていないんですもの。丸めて叩くつもりでしょうか。
「……コノ辺リデカエルヲ見ナカッタカ?」
「ごめんなさいごめんなさい……か、かえる?」
そういえば、さっきの神様仏様ビッグ様にも尋ねられました。カエルの捕獲が流行っているのでしょうか。
「し、知りませんカエルなんて、もうこれっぽっちも。おいしいですかそれ?」
「……ソウカ」
搾り出すようなチャクロンの声に納得したのか、ロボットは銃を引っ込めます。そして、足を折りたたんで再びモードチェンジ。最初に現れたときと同じ形になります。
まだガクガクブルブル震えているチャクロンには構わず、再び土煙上げて爆走していきました。
「な、なんだったんだアレは」
とにもかくにも、早すぎる旅の終焉は回避できたようです。健康なのが一番です。
チャクロンは、再び歩き始めます。
…
…