―科学の子は悪魔の子― ページ3
勇者チャクロンがマリア姫を助けるための冒険にでてから、今日で三日目。勇者チャクロン、今どこで何をしているかというと……。
「は……腹減った……」
何も無い平地で行き倒れていました。べちゃあっ、とうつ伏せに倒れこんでいます。全然頑張っていませんでした。
実は旅に出る際、ジェラルド王に急かされたこともあって何も持たずに出てきてしまったチャクロン。もう三日も、飲まず食わずです。広大な草原の中に作られた、草を刈り取っただけの簡単な道を、チャクロンは国を出てからひたすら辿っていました。もちろん己の足で地面を踏みしめて。
とりあえず道を進んでいけばどこか次の国にたどり着くと思っていたのですが、三日間歩き続けても何も見えてきません。ヤバイです。死んじゃいます。
「うぅ……今までの冒険が、走馬灯のように……」
まだなにもしてません。蘇る思い出といえば、壁にした落書きを頭にたんこぶ作って掃除している場面ぐらいです。駄目な不良です。あぁ、勇者チャクロンの冒険、もう終わってしまうのでしょうか。
ガタゴト、ガタゴト……
さてこれは何の音かといいますと。でこぼこ道をリヤカーが突き進む音だったりします。
チャクロン、がばっと起き上がり振り向きます。紫色の巨大な生き物が、沢山の荷物を搭載したリヤカーを引いて近づいてきました。長い耳の生えた丸い生き物で、手には長い釣竿を持っていました。
「きみ、どーしたのー?」
低くてのんびりした声で、その生き物はチャクロンに話しかけてきました。
「じ、実は腹が減って動けなくて……」
チャクロンは正直に話しました。ぶっちゃけ、何か食べ物を分けてもらえないかと期待してます。
丸い生き物は、くるりと反転。リヤカーに積んである荷物の中から紙袋を一つ手に取り、チャクロンに渡します。
「パンと、お水だよー」
「く、くれるのか?」
丸い生き物は、こくりと頷きました。チャクロンは、がさごそと袋を開けます。中には大きなパンと、ビンに入ったお水がありました。
チャクロンはパンにかぶりつき、お水を流し込みます。天上の味がしました。涙が出ちゃう。
チャクロンは、生まれて初めて心の底から人に感謝しました。
「あ、ありがとう、ホントにありがとう……。俺の名前は、チャクロン。えぇと、貴方は?」
「ビッグ・ザ・キャット。ビッグでいいよー」
キャットということは、猫なのか? 気になりましたが、特に追求はしませんでした。
「ビッグ、か。いい名前だな。名は体をあらわす、か……」
チャクロンは、ぼそりといいました。
「ねぇきみー。カエルくんみなかったー?」
チャクロンがパンを食べ終えると、ビッグがそう尋ねてきました。
「カエルくん? カエルですか?」
「そー。カエルのカエルくん。みなかったー?」
よくわかりませんが、チャクロンはカエルを見かけてはいません。見ていないというと、ビッグは残念そうに肩を落としました。
「そっかー、どこに行っちゃったのかなーカエルくん」
どうやら、カエルくんとやらが見つからずに困っているようです。さっそく、恩を返すチャンスです。
「俺も一緒に探そうか?」
普段は、自分から人助けなんて全然まったくこれっぽっちもしないチャクロンですが、目の前の猫様は命の恩人です。恩猫です。
「気にしなくていいよー、それじゃーねー」
「え? あ、あぁ……それじゃ」
やんわりと断って、ビッグはガタゴトとリヤカーを引いていき、鼻歌を歌いながら数メートル先の分かれ道を左に進んでいきました。
ちょっと拍子抜けしたチャクロンですが、その大きな背中が見えなくなるまで敬礼のポーズを崩しませんでした。
「さて、と」
ジェラルド王から渡された、ボロボロで嫌がらせかと思うぐらい見辛い地図によれば、この分かれ道を右に進めば国に着くはずです。
猫の優しさに触れたチャクロン。取り戻した元気を動力に、のんびりのんびり歩き始めました。
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