―科学の子は悪魔の子― ページ1
(このお話はフィクションです。ゲーム本編とは全く何も全然関係ありません)
どす黒く分厚い雲が空を包み、時折轟く雷鳴によってその姿が一瞬浮かび上がる、古い造りの大きなお城。いかにもラスボスがいそうな感じです。
その奥深くに、マリア姫は囚われています。そう、ここはシャドウ帝国に造られたシャドウ城。暗くじめじめとした、嫌な雰囲気を纏っています。お化け出そうです。怖いです。
~かおすとーりー、混沌した物語~ ―科学の子は悪魔の子―
「……ふぅ」
小さな部屋の中に、一つの吐息がこぼれました。サラサラのブロンドヘアと純白のドレス、そして見ていると吸い込まれてしまいそうになる大きな瞳。
見るものすべてを魅了する美しい姫君、マリア姫でした。
「……入るぞ」
きぃ、と金具の軋む音を響かせながら、一匹の黒いハリネズミがマリアの部屋へ入ってきました。
黒いハリネズミは肩から足元までを、派手な赤いマントで隠していました。マントには、ゴテゴテと過剰な装飾が施されています。歩きにくそうです。
彼こそ、このシャドウ帝国の王様、シャドウ帝王そのひとです。マリア姫をさらった張本人です。
「……どうだ、気分は」
低くて、威圧感のある声です。さすが帝王です。
「シャドウ、私……」
マリア姫は、か細い声を絞り出すようにして言いました。
「……た、い、く、つー! もー退屈! 最近雨ばっかりだし、雷も多いし……。この国雨降り過ぎー!」
「ご、ごめんよマリア!」
不満を喚くマリア姫を前に、あたふたするシャドウ帝王。帝王の威厳はどこにも見当たりません。
「この国は昔から雨が多いんだ……。大丈夫、今雨の少ないところに別荘を建てているんだ。それが完成したら、二人でそこに住もう」
「ホント! やったぁ!」
両手を挙げ、喜びを表現するマリア姫。囚われの身であることなど微塵も感じさせません。本人がそう思っていないのだから当然でしょう。
「あ。でも私、お爺ちゃん……じゃなかった、お父様に何も言わずに来ちゃったからなぁ。今頃、カンカンだろうなぁ……」
「そ、そのことなら心配ないよ。僕がちゃんと、プロフェッサー……じゃなかった、ジェラルド王に連絡しておいたから……」
「ホント! ありがとう!」
ぎゅう、とシャドウを抱きしめるマリア姫。シャドウ帝王は、それは幸せそうな間抜け面で、今にも昇天してしまいそうです。
「マ、マリア……」(←死ぬときの台詞)
さて、実際はどうなのかというと。当然、ジェラルド王に連絡なんてしてません。するわけありません。
一ヶ月前、うまいことジェラルド城からマリア姫を連れ出すことに成功したシャドウ帝王は(お菓子あげたら簡単についてきました)、『マリア姫は頂いた byシャドウ』と書置きを残してシャドウ城に帰ってきました。それからは、毎日マリア姫といちゃいちゃして過ごしてます。
別に書置き、というか犯行声明文なんて残す必要は無かったのですが、まぁ黙ってるのもなんか悪いし。怪盗が、獲物のあった場所に『愚鈍な警察諸君、宝石は私が頂いた~』って書かれたカードを置いておくのと同じ心理、みたいな?
当然それを見たジェラルド王は犯人を容易に特定して、名のある勇者やそうでない勇者をシャドウ帝国に送り込んだわけですが……。結果は、前回のお話でジェラルド王が話したとおりです。
ジェラルド王の言うとおり、シャドウ帝国は圧倒的な兵力を持っているわけではありません。全兵力を持ってすれば、ジェラルド王国に軍配が上がるはずです。
ではなぜそうしないのか。マリア姫が人質に取られている(そう思っているのはジェラルド王側だけですが)というのもありますが、一番の原因は……。