―始まりの音色はシャンデリア― ページ3
その小動物のパワーを体に取り込み、自分の力にする能力。それがキャプチャーです。チャオはこのキャプチャーを繰り返していくことにより、強大な力を得ることが可能です。人間や魔物にだって負けません。小さな体に無限のパワー、チャオパワーです。
しかし、チャオにキャプチャーされてしまった小動物はカラカラに干からびて、しばらくの間干物みたいになってしまいます。キャプチャーされる瞬間もあまり心地よくはないそうで、小動物達は基本的にキャプチャーされるのを嫌がります。
ですが、そんなことチャオには関係ありません。
たくさんの小動物をキャプチャーして、チャオ達は強さを求めます。なので、この世界では基本的にチャオと小動物の仲は最悪です。火花バチバチです。戦争です。
「……とにかく貴様は、まず強くなれ。今のままじゃ血の気の多い小動物に襲われて死ぬぞ。まずはおとなしそうな小動物を見つけて、地道にキャプチャーを繰り返して……」
「やな感じ」
夢踊る冒険の始まりにしては、セコイ感じです。
「じゃが、エッグ魔王は小動物を次々に捕まえて、ロボットに改造しておる。急がないと、小動物の数が減って十分な強さを得ることができなくなってしまうかもしれん。気をつけろよ」
チャオにはキャプチャーされ、エッグ魔王には改造され。この世界では、小動物は過酷な扱いを受けているようです。
「さぁ、言うことは全部言ったぞい! もう準備はできたか? ハンカチは持ったか?」
「あの、質問」
「なんじゃ!」
「さっきから王妃様の姿が見当たらんけど」
「マリア姫をかどわかされたショックで、もう一ヶ月以上も寝込んでおる。あぁ、カワイソウに。その姫も、もう一ヶ月以上あんな薄汚い国に閉じ込められて……。許さーん!」
「あの、質問」
「なんじゃ!」
「シャドウ帝国の場所は?」
「遥か北だといっただろう。地図? ホラ、持ってけ! そしてさっさと行け!」
「あの、質問」
「なんじゃ!」
「バナナはおやつに」
「入らん!」
ジェラルド王は、懐から小さなリモコンのようなものを取り出します。
「さぁ行けー!」
ポチッとな。刹那、鎖が切れる音とともに落下してきたのは、吊るされていた大きなシャンデリアです。
「うおおっ!」
チャクロンは、素晴らしいスピードで城を飛び出します。その直後、城の中からぐわっしゃーんという大きな音がしました。ジェラルド王達の安否が心配です。
…
…
そんなわけで。
大きな大きな門の前に、チャクロンは立っています。一歩出ると、そこはもう安全な国の中ではありません。夢と希望その他もろもろに満ち溢れた素敵でファンタジーな世界が広がっているのです。
チャクロンは、ナイフとランプを詰め込んだカバンを抱きかかえ、父さんがくれた熱い想いと母さんがくれたあの眼差しを思い起こそうとして、そういえば自分には両親が居ないことに気づきました。ちなみに、カバンも持っていませんでした。
「よし、俺はやるぜ! エッグ魔王を倒し、マリア姫を助け出してみせる! みんな、見ていてくれ!」
ぎゅう、と拳を握り締めて振り返った先には、誰も居ませんでした。日々イタズラに精を出してぐうたら過ごしてきた勇者を見送ろうとする人など、誰もいませんでした。
「ふっ、何時の世も正義の味方とは孤高な存在なのさ」
目にうっすら涙をにじませて、チャクロンは負け惜しみを言いました。その時。
「おい、チャクロン」
「あ、プンプンノスケ」
プンプンノスケ。チャクロンの数少ない友達です。
「チャクロン……とうとう行っちまうんだな」
「あぁ。ついさっき無理やり決められたんだけどな」
「お前が行っちまう前に、言っておきたいことがある」
「……なんだ」
こんな俺に、見送りの言葉をかけてくれるのか。お前とはいつも喧嘩ばかりだったけど、それももうできなくなるかもしれないと思うとちょっぴり寂しいぜ。
チャクロンは、プンプンノスケの言葉を待ちます。さぁ、どんな言葉をくれるんだ友よ。
「この間貸した百リング返せ」
「俺はもう行くぜ、じゃあな」
門をくぐり、走り出すチャクロン。鮮やかな緑が一面を彩る草原を駆け抜けていきます。
あっという間に姿が見えなくなったチャクロンに対し、プンプンノスケは精一杯の声で叫びます。
「チャクローン! 俺は待ってるぜー! 利息は一日につき十リングなー!」
返事は返ってきませんでした。
とにもかくにも。勇者チャクロンの冒険が今、始まったのです。
果たしてチャクロンは、エッグ魔王を倒し、マリア姫を助け出すことができるのか!
~次回『科学の子は悪魔の子』に続く~