―始まりの音色はシャンデリア― ページ2
「……とにかく、奴は勇者の剣でしか倒せん。そして勇者の剣が使えるのは、勇者のみなのじゃ」
「あっそ。まぁ、勇者の剣も行商人には使われたくないだろうからな。売られちゃうし」
「そこで、貴様の出番というわけじゃ。貴様が勇者の剣を見つけ出し、エッグ魔王を倒し、姫を救う。ついでにシャドウ帝国もぶっ潰してくれれば万々歳。前からムカついておったんじゃ、あの国には」
「ふーん」
耳と鼻をほじりながら、だるそうに聞いていたチャクロン。勇者的な要素はひとつも見当たりません。
「まぁ話はわかったけどさぁ。何で俺なのよ、よりにもよって。ほかにも居るだろ、強い勇者が」
なにも、勇者はチャクロンのみではないのです。世界中にはたくさん勇者が居ます。この国もそれなりに大きな国で、たくさんの人やチャオが住んでいます。
故に、名のある勇者が居てもおかしくはないのですが……。
「わが『ジェラルド王国』の勇者は、全滅じゃ。今までに魔王退治及び姫の救出を命じた勇者たちは、誰一人として帰ってこない。最後に残ったのが……」
「俺かい」
チャクロンは納得しました。そりゃそうだ、そんな重要な任務を俺に任せるはずがないじゃないか。よほどの理由がない限りは。
「なるほどよくわかったぜ。そんなことを言われちゃあ、俺は……」
チャクロンは決心しました。
「やるわけねぇだろ。あばよ」
くるりと華麗に回れ右。チャクロンは城を出ようとします。
「ま、まて!」
慌ててジェラルド王がストップをかけます。
「もう貴様しかおらんのだ!頼む、このとーり!」
ジェラルド王、なんとこの最低勇者に向かって土下座です。なんとしても姫を助けたいジェラルド王、なりふり構っていられません。
両脇で待機中だった騎士達がどよめく中、一人若干良い気分に浸っているのは、チャクロンです。
「まー、どうしてもっていうならやってやらないでもないけどー。でもさ、それなりの態度ってもんがあるよなー。さっきから人のこと貴様呼ばわり……」
「チャクロン様、どうかこのとおり!」
「お客様に対しておもてなしの一つも無いっていうのは……」
「今すぐ最高級の木の実を持って来い!」
「あー、なんか腹いっぱいになったら眠くなってきた……」
「寝室にご案内……って、いい加減にしろ!」
ぜはー、ぜはーと息を切らすジェラルド王。血管切れたりしないか心配です。
「無事姫を助け出したら、一生遊んで暮らせるだけの報酬をくれてやる。だから行け!」
もう実力行使です。お金の力は絶大です。おかね。嗚呼、なんていい響き。
「具体的な金額は?」
「心の底から嫌な奴だと思えるよ、貴様は」
ごにょごにょ……
「おーけい、商談成立だ。ところで、姫を助けてくるだけじゃ駄目なのか? 魔王なんて放っておけばいいじゃん」
「ふん、このチキン勇者が」
ジェラルド王は、どうしてもチャクロンに勇者としての適正を見出せません。ですが、もうこの国に勇者はコイツしか居ないのです。今は、藁にもすがるべき時です。
「いいか、エッグ魔王は今シャドウ帝国の味方だ。今の貴様が単身シャドウ帝国に突入したところで、エッグ魔王のロボットに八つ裂きにされるだけだ。まずは、強くなれ。そして勇者の剣を手に入れろ。シャドウ帝国の兵力は脅威ではない。エッグ魔王を倒し、人質であるマリア姫さえ取り戻せばあんな国……」
そこまで話して、ジェラルド王はチャクロンが寝息を立てていることに気がつきました。
「どうだ、わかったか?」
「わがりまじだああああああ」
コブラツイストから開放されたチャクロンは、冷静になって考えます。
「……強くなれっていうけどさ、そんな簡単に強くなれるわけ無いじゃん」
「はああああああああ」
ジェラルド王は盛大にため息をつきました。それはもう盛大に。含まれる感情は、呆れのみです。
「貴様、何年チャオをやっておるんだ。貴様は強くなる方法を知っているはずだ。知らないとかいったら今すぐシャンデリアの下敷きにしてやる」
ジェラルド王、物騒なことをマジな眼で言います。そのマジな迫力の前では、今まで無礼千万だったチャクロンも態度を改めざるを得ません。
「え、えっと……き、キャプチャー、ですよね? ち、ちょっとど忘れしただけですよ。やだなぁもう、あはははは」
顔も声も引きつっています。命を握りつぶされそうになっているのですから、当然です。
極限状態の中チャクロンが何とか搾り出した言葉、キャプチャー。チャオに与えられた、不思議な能力の一つです。
この世界には、『小動物』と呼ばれる、普通の動物よりずっとずっと小さいサイズの動物が居ます。そのまんまですね。