―始まりの音色はシャンデリア― ページ1
(このお話はフィクションです。ゲーム本編とは全く何も全然関係ありません)
「……勇者チャクロンに命ずる。エッグ魔王を倒し、マリア姫を助け出すのじゃ!」
ジェラルド王の張り上げた荘厳な声に対し、勇者チャクロンははっきりと答えました。
「やだ」
~かおすとーりー、混沌した物語~ ―始まりの音色はシャンデリア―
剣と剣が火花を散らし、魔法と魔法がぶつかり合い、『勇者』なんていう職業がまかり通る、夢と希望その他もろもろに満ち溢れた素敵でファンタジーな世界。それがこのお話の舞台。
王様の前で正座している黒い若者チャオ――チャクロンがお城に呼び出されたのは、つい先ほどのことでした。チャクロンが家でごろごろしていると(勇者ではなく、にぃとではないかという噂もあります)突然、家の前に馬車がやってきたのです。
中から数匹の騎士の格好をしたチャオが降りてきて、中に押し入ってきました。わけがわからぬままチャクロンはとっ捕まり、馬車に押し込められて気づいたらこうしてジェラルド王の前に正座させられているという状況に陥ったのです。前言撤回、呼び出されたのではなく拉致です。
――何コレ?
ぽか~ん、とした今の気持ちをそのままポヨに反映させて、チャクロンはきょろきょろと辺りを見回します。
自分の足の下には、なんかすんごい真っ赤な絨毯。コーヒーこぼしたら殺されそうです。
右にも左にも、チャクロンを拉致した奴らと同じ格好のチャオがずらりと並んで鋭い視線を注ぎます。もちろんチャクロンに。
顔を上げれば、はるか高くまで届く天井。そこから吊るされている豪奢なシャンデリアは、落下すればジャストでチャクロンを直撃すると思われます。一瞬想像して、走った寒気にチャクロンは身を震えさせました。
「うぉっほん」
わざとらしい咳払いをして、目の前の大きな椅子に座った老人――この国の王様、立派なお髭のジェラルド王です――が、城中に響き渡る大きな声で言い放ちます。
「……勇者チャクロンに命ずる。エッグ魔王を倒し、マリア姫を助け出すのじゃ!」
チャクロンは、またぽか~んとなりました。何言ってんだこのジジイ?
チャクロンは面倒なことが嫌いです。そして、ここで安易に肯定の返事をしてしまうと、それはとても面倒なことになるだろうと直感しました。なので、
「やだ」
はっきりきっぱりすっぱり言いました。
「や、やだとはなんじゃ。貴様、それでも勇者か!」
「はん、どうせ俺は駄目勇者ですよーだ。町から出て一歩目に出くわしたスライムに惨殺される貧弱君さ」
ジメジメオーラ全開で体育座りをしてしまうチャクロンでした。何か深い心の傷を背負っているようです。
「えぇい、貴様だってこの国の現状をわかっていないわけではあるまい!」
ジェラルド王は立ち上がり、声を荒げます。
「ここからはるか北に位置する国『シャドウ帝国』が、ワシの愛しいマリア姫をかどわかしおった!おまけに奴らは、あのエッグ魔王を味方につけて、世界中を混乱の渦に陥れている。エッグ魔王の毒牙にかかった小動物はその姿をロボット兵器へと変貌させ、何の罪もない人やチャオを襲う……」
そこまで話して、ジェラルド王はチャクロンが寝息を立てていることに気がつきました。
「貴様、仮にも勇者なら『姫』とか『魔王』みたいな単語に少しは興味を引かれろ。村人に格下げして、同じ台詞を延々と喋らされたいか?」
浮かんだ青筋をぴくぴくさせながら、ジェラルド王はチャクロンにコブラツイストを決めます。
「あだだだだ、ぎぶぎぶ」
ふんっ、と鼻を鳴らして、ジェラルド王はチャクロンを投げ飛ばします。べちゃりと叩きつけられたチャクロンはジェラルド王に抗議の構えです。
「だってよぉ、俺には関係ないじゃんか。これだけ騎士が揃ってんだから、自分で何とかしろよ」
チャクロンやジェラルド王の周りで整列している、騎士チャオのことです。身も蓋も心もないチャクロンの言葉に、ジェラルド王はしょっぱい液体を目からこぼしそうになりました。
「それができるのなら、とっくにそうしておるわ!」
ちくしょー、とやり場のない怒りで体が震えるジェラルド王です。それができない理由を話し始めます。
「あのエッグ魔王はな。この世界のどこかにある『勇者の剣』でないと倒せないのじゃ」
「ゆうしゃのつるぎ? ぷっ、だっせ」
もう、やんなっちゃった。落とそっかな、シャンデリア。
実行に移す直前まで行きましたが、何とか思いとどまるジェラルド王でした。ここに居たらワシにも当たっちゃうし。