~3~
完全に車の姿が消えるの確認すると、私は残った男に言った。
「で?お兄さん、どういうつもり?社員室に裏口なんてついてないよ」
「貴方達を逃がします。博士が気づいて戻る前に早く車に乗って下さい」
「ちょっっ。そんなの信用できるワケ…」
「俺は信用するぜ。君も危険だ。ここにいない方がいい。村上さんと一緒に行こう!」
そう言いながら彼がおびえるチャオを抱いて社員室のロッカーから出てきた。
「し、知り合いなの?二人とも」
「ああ。話は車の中で。さぁ、早く!」
彼は私の手を握ってひっぱっていく。
「う、うんっ」
わけのわからないまま、彼の熱い手の感触に卒倒しそーな私は無我夢中でついていった。
自分でもバカなことしてるってわかってる。店長、店空っぽにしてごめんなさーい。
けどどうにもとめられない。今は彼を信じて後悔しないんだから。
私たち三人を乗せたベンツは嵐に向かって猛加速で発進した。
「巻き込んでごめんよ。あいつらから逃げた時に頭に浮かんだのが君だけだったんだ」
広いベンチシートの後部座席でチャオをはさんで並んで座っている彼が言った。
「ううん。また会えて嬉しいよ。それにこんなかわいいチャオも連れてきてくれたしぃ」
「俺の名前は青山芯。シンって呼んでくれ。仕事しながらS大の通教生やってる」
「私は松原絵美。N女子高二年。エミでいいよ」
「エミ、君のとこに行った先週の水曜ね、アパートに戻ると村上さんが来てたんだ。それで拾ったコイツがチャオって名前でどう育てるのかも教えてもらったんだ。まだ一週間にもならないけどコイツスッゲーかわいくてサ。村上さんがメルくれなかったらバカ博士につかまってたよ。間一髪だったぜ」
「フムフム」
見事なハンドルさばきしながら村上さんも話し出した。
「複雑ないきさつは省略しますが、私は博士がチャオ様を見つけるお手伝いをしていました。しかし見つけた途端、博士はあのかわいいチャオ様をモルモットにして学会に発表すると言い出したのです。そんな残酷な事は絶対阻止しなければなりません!そこで監視のスキをついてこっそりチャオ様をお連れし、すぐ戻らないと疑われるので少しの間のつもりで青山さんのアパートの裏にチャオ様の入ったダンボールを隠し置いたのです」
「なるる~、そしたら偶然シンが拾っちゃったんだね」
「ハイ…。しかしこれはチャンスと思いました。このチャオ様は古代から水の神様として祭られていたのです。チャオ様には不思議な力が備わっています。きっとチャオ様が選んだこのお方なら力になってくださると確信いたしました。それで青山さんにチャオ様がひっそり幸せに暮らせる様ご協力をお願いしたのです」
「なんでバレちゃったの?」
「あー、拾ってすぐサ、俺がネットでいろんなとこ検索したんだよね。1番ヤバかったのが掲示板の書き込みだよなぁ。こんな動物知りませんか~?って書いちゃって。で俺の住所調べたらしい」
「今後のことですが、あのしつこい博士から逃げるには青山さんがチャオ連れて南米に逃げた、と信じ込ませるのが良案と考えます。それは私がうまくやりますから、青山さんは博士が南米に旅立つまでの間、北海道の私の別荘に身をひそめていていただきたいのです」
村上さんは片手ハンドルのまま封筒を青山さんに渡した。
「北海道行きの航空チケットと当面の生活費が入ってます」
「ん。まぁ北海道は悪くないね。俺の夢は一流のサラブレッド育てることだしな~。人の世話になるのは趣味じゃないがチャオを守る為だし今は仕方ないか。出世払いってコトでこの金もらっとくよ」
「ありがとうございます」
「ほ、北海道…」
せっかくこんなに親しくなれたのにそんな遠くにいっちゃうんだ…。
ちょっとショック。ううん、かなり…。
へこんだのさっしたのかチャオが私のほほにスリスリしてくれた。
うゆゆ~なんて優しいイイコなんだ~。このチャオちゃんともお別れはWさみしーよぉ~。
「もうすぐ空港です。青山さんを見送ったら松原さんを自宅に送り届けます」
いつの間にか雨も風もなくなって流れる雲の切れ間からキレイな星空が輝いていた。
「エミ」
「ん?」
シンが私の手を強く握った。
「俺と結婚してくれ」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「おおーっ!それは妙案です。博士がこの後どんな嫌がらせを松原さんにするかもわかりませんし、なによりチャオ様が松原さんをいたくお気に入りのご様子。ぜひ前向きに検討してみては」
わ、私は動揺なんてもんじゃない、目の前真っ白になりそーだぁぁ。なぜこんな展開にっ。
「ケ、ケ、ケコンって、私まだ17だから親が親が反対するに決まってるよーー」
いや、そりゃ初恋のヒトからプロポーズはすんごいハッピーなんだけど、でもコクハクもナシにデートもナシにいきなしってのはなんか間違ってるよぉぉぉ~。