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文人は歩く。今日も文人は散歩をする。一人で、だ。足下で流れる川の雰囲気はいいものだった。石の足場を歩いているから水に触れることはないが、そういうものを人間は感じ取れるものだ。
一人で散歩をしているといろいろな考えが脳に浮かんでくる。それらに身を任せることが文人は好きだった。今は、ある問いに対しての答えをその中から見出そうとしていた。
自分は、何を探しているのだろう。
答えはある程度出ているのだ。そしてその答えは以前彼女に話した通りだ。しかし、それは本当に存在するものなのだろうか。存在しないものを求めて歩いているのかもしれない。そうでなくても、どんなに歩いてもそれが手に入らないのかもしれない。手に入れるには別の方法が必要なのかもしれない。不安は尽きない。
もしそれを見つけたら散歩をやめる、と文人は思う。その時は散歩をしていた自分に対して満足することができるだろう。しかし、見つけることができなくて散歩をやめるとしたら、今までしてきた散歩にどんな価値があったというのだろうか。
もしかしたら自分は散歩をしてきた意味を求めて彷徨っているのかもしれないな、と文人は思う。そして、確実にそういう側面もあるんだろうと認めた。
自分と向き合って出口のない迷宮の中に閉じこめられるのは心地よいことではない。しかし、たまには必要なことだ。そういうことを放棄し続けたら最終的に散歩すらできなくなる。
彼に必要なのは、彼を満たす何かなのだろう。