side-1
「ななみみー、おはよー」
美紀の友人の声。ななみみとは無論七海美紀の愛称である。
「おはよー。舞ちゃん。シンデレラの甘いオブラートは健在?」
「……は?」
最近彼氏ができた友人へ、大人の階段を登ったのか否か、を周囲を気にかけ配慮をしまくった遠回しかつテクニカルな言い回しでもって問いただしたはずだったのだがその意味が友人に通じることはなかった。
他にどういう言い回しで尋ねればいいかと迷う。この際、直接的な表現で聞いてしまえばいいのかとも思う。しかしそんなことをして万一にも聞かれたら周囲の目が痛いわけで。
「メイデンメンブレンは無事?」
「メイデン?よくわからないんだけど」
これは結構わかりやすいはずだったのだが、だめだった。
この後、直接的な表現で尋ねたところ、どうしてそのような質問を人のいる場所でするのかと怒られた。周囲の人間の視線が少しこちらに集中した気がした。
「みぎゃー。視線が視線が」
「ったくもう……」
「だってすっごく遠回しに言っても通じないんだもん」
「あんたの言っていることが通じる方が変」
「あいぐー……」
美紀は虎のように唸った。
言葉がちゃんと通じないのはもどかしい。それは言葉だけでなく心も通じ合わないことの比喩に思えるからだ。
言葉は不便だ。そう美紀は思った。
少女は楽しい日常を送っていたが、自分が満たされることを強く望んでいた。