第5回
~噂と日々~
世の中には、都市伝説などと呼ばれるものがある。
当然、と言うべきなのだろうか?
チャオ達の中にもそれはあるようで、
本当なのか嘘なのか、ただの噂だったのか、事実だったのか。
中には古い新聞にまことしやかに載っていたというものもあり、
僕も、すべてとは言わないが子供の頃から多くのものを聞き、
心躍らせた。
例えば、ライト化オスとは違う究極といわれたたった一匹のチャオのこと。
いつのまにか姿を消した、道化のようなチャオのこと。
森の奥、大人でも危険な道行の、その又奥にいるという噂。
一人の時、どこからともなく現れて、気がつけば消えている不思議な子。
恐ろしい力を振るい、人々に恐怖をもたらしたチャオ達。
どこにあるかもわからない、不思議な不思議なチャオの店。
あの、アークの中にあるという、時の止まったガーデン。
夜な夜な怪物へと姿を変え、人を襲うというものも。
五年前、あの大津波が彼らの所為だと言う人もいた。
とりわけそんな中、
幼かった僕の心をくすぐったのが。
ガーデンにある秘密の入り口、誰も知らない秘密の場所、
誰も知らないガーデンの話。
子供心に一生懸命、
お母さんにしかられても、
お父さんに脅かされても、
毎日毎日飽きもせず、
気がつくと日が沈んで、両親にあきれられるまで、
ずっとずっと探し回って、
気づかず、同じところもいっぱい探して、
諦め切れずに今も探して。
そして、今は丘に伸びる階段の、真中あたりで日向ぼっこしている。
あぐらのをかいたひざの中、
お日様の光にきらきら光る、まぶしい金色のミズチャオ、
やわらかくほんのり温かい体を丸めて、気持ちよさそうに昼寝をしている。
「あれだけやっても起きないか・・・・・・・・・」
ひざの中の感触にほほを緩めてつぶやいて。
「だったら起きるまで待つしかないかな?」
蒸し暑い密林の空気を、海の風が薙いで行く、
心地よい午前と午後の境の時間、
冒険心より、好奇心より、
ただ、惰眠をむさぼりたい、そう思わせるこの時を、
満喫しようと寝転んで、
そして、ひざが軽くなった。
「あれ?」
我ながら間の抜けた声、
寝返りを打ったのか、バランスを崩したのか、
ひざの上にいたものは転げ落ちて、
落ちたものは、
寝ぼけまなこできょろきょろしていて、
まだまだ眠いのか大きなあくび、
不思議そうにほほをさすって、
わからなくて首をかしげて、
背を向けていてこちらに気付いていないようで。
そんな、挙動の一つ一つに思わず笑みがこぼれてしまう。
「おはよう、レオンハート」
背後からの突然の挨拶、
驚いて飛び跳ねて、
こちらに気付いて、
僕にはわからないチャオの言葉で何かを一通りいったあと。
首に下げた白い機械が小さな電子音を鳴らす、
小さなその機械は、丸の量端を切ったような形で、
それについた小さな画面に、手紙の形のマークが映っていた、
いつものように、機械についた、やっぱり小さなボタンを押すと、
流れてくる文字
「おはよう」
つまり、レオンハートは寝起きのことでいろいろ言いたかったんだろう、
けれど、これがわかる言葉に直された、だた
「おはよう」
さっきとは別にもう一度挨拶した。