8話(2) 命という名の報酬
「うらあああっ!!」
背後からチャオが剣を振り上げながら走ってくる。だが、ノアルはそちらの方を振り向かずに青いニュートラルノーマルチャオの方を見ていた。背後からきたチャオが剣を振り下ろす寸前に何者かがそのチャオの目の前に現れた。
「ふぅ、危ないところだったね。隊長」
ディアンが自らの能力でキャプチャーした小動物を左手に出現させ、それで剣を防いだ。そして、素早くクロウがそのチャオの背後に走り込んで鎌の柄で背中を強く突いて気絶させた。
「あ、リーダー。もうすぐこっちは全員気絶するぜ」
「ありがとうな。それじゃあこっちもとっとと終わらせる」
「うっしゃ。行くぞ、ディアン」
「OK~」
クロウとディアンは大勢の敵に突進していく。だが、敵の一部は攻撃を避けていき二人を囲もうとする。ディアンは飛んでそれを回避したが、クロウは囲まれてしまった。だが、その状況を楽しんでいるのか、クロウは不気味な笑みを浮かべている。
「ククッ、行くぞぉぉっ!!」
クロウは前方に走り出し、素早く鎌を振り回して3人気絶させる。その直後に鎌を後ろに放り投げて後方の敵の動きを一瞬止める。その隙にクロウは小刀を二本取り出して後方に振り返りながら逆手持ちで持つ。一瞬だけ構えて相手の懐に飛びこみ、相手の攻撃を小刀で防いで素手で気絶させていく。その間にディアンは他の敵を突進して気絶させていく。しばらくして、二人の攻撃は終わった。
「お前、チャオキラーに入らないか?」
「誰が入るかぁっ!」
「仕方がない。お前には話してやろう。この国のチャオは全滅する」
「!?」
「チャオ達を戦わせたり、殺せばポイントが高かったり、チャオを狙うロボットを出撃させたり、そして、俺達のようにチャオを殺せるようなやつらが雇われている。おかしいとは思わないか?」
ノアルは青いニュートラルノーマルチャオをじっと見ながら話す。そして、再びノアルは話し始めた。
「これらの行動はもっと過激になっていく。おそらく、その時には多くの者がそれに気付くだろうが、その時にはもう手遅れだ。…まぁ、それが王の狙いなのだろうがな。生き残る方法はただ一つ。王に雇われ、その報酬として生きるしかない。1万ポイントを稼ぐか、今チャオキラーに入るかにしぼられる。無論、1万ポイントを稼ぐよりチャオキラーに入る方が楽だ」
「だ、だが…」
「その報酬は嘘かも知れない。だが、俺達が生きていける可能性はこれが一番高い」
「なるほどな。…だが、何故そこまでして俺を助けようとするんだ?」
「お前が入ればお前を含める我らチャオキラーの戦力、生存率が増す。数が多い方が有利だからな」
ノアルはあっさりと言う。青いニュートラルノーマルチャオはしばらく考えてから、ノアルにチャオキラーに入る事を言うと、ノアルは青い腕輪を投げ渡した。青いニュートラルノーマルチャオはそれを左腕に付ける。すると、白い方の腕輪がはずれた。
「これで、お前も今日からチャオキラーだ。幸運だな。能力かどうか見分けるのが難しかったぞ」
「え…?まさか…」
「あぁ。キャプチャーした物を一瞬で取り出す能力だな。取り出す芝居も上手かったからあれを能力かどうかを見分けるのは難しい。実際、ディアンの方は気付いてなかったようだしな」
「危ねぇ。戦ってたら俺、死んでた」
「あぁ、そうだろう?」
青いニュートラルノーマルチャオは苦笑する。それからふと気付いて名前を名乗る。彼の名前は「エイチ」。
「さて、エイチ。お前は一旦城に行け。そして、地下チャオ研究室にて足の改造を頼め。勿論、無理にとは言わないがな」
「いや、リーダーが言うからには何か意味があるのだと思う。それならば従うまでさ」
と言ってエイチは微笑む。そして、城の方向へ走っていった。しばらくしてからノアルは座り込んでいる二人に近寄って声をかける。
「アイツは能力を持っていたため、チャオキラーにした。他のやつらが目覚める前にとっとと行くぞ」
「はぁ~い」
「次はどこに行くんだ?」
「さぁな。決める必要はないだろう。とりあえず歩いていればチャオの集団がでてくるだろう」
「でてこなかったらどうすんのかねぇ…」
「知らん。それはそれで平和だからいいだろが」
三人は何事も無かったかのように歩いていく。ノアルはさきほどはずした先端部を真っ赤な笛に付け、歩きながらあの哀しげな曲を演奏し始めた。