5話(3) 始まる計画(前編)
「ポイントも結構稼げてきたねぇ」
「最近は戦いっぱなしだからな。そろそろ食料を買いに行くか」
ディとスラッシュは多少考えたものの、集団で行動しているチャオ達を倒しながら金を奪い、ある程度たまったら街へ食料を買いに行く。という方法でポイントを稼ぐことにした。チャオには、自分の体内にアイテムを隠すという能力がある。そのため、衝動買いしてもたいした負担にはならないのだ。また、ディアンのように大量の小動物を体内に隠しているチャオもいる。
「で、どこにいくの?」
「んむ。ここらへんで一番栄えているのは、このレイブークっつう街だ」
スラッシュの記憶が正しければレイブークは大手企業の集まった街。街の中心には巨大なデパートがあり、その街の工場にて作られた物の大半がここで売られる。しかし、そのデパートにてある一定の売上高に到達できなかったところの工場は…破壊される。なので、お目当ての物が久しぶりに来たら売っていなかった。ということもしばしばあるのだ。無論、食品が売っていないということもあり得るのだが。二人は、早速レイブークへ向かった。休み休み行ったこともあり、レイブークに着いたのは深夜になっていた。二人は寝ていないのだが、ホテルやら宿やらを探す前に、デパートへ直行した。
「んじゃあ、俺は小動物売り場に行くから、お前は食料を買ってきてくれ。頼んだぞ」
「じ、自分勝手だなぁ」
そう呟きつつ、ディは食品売り場のチャオコーナーと書かれた所に行き、安い木の実を選んではカゴの中へ入れていく。当然のことだが、安い木の実を選ぶ理由は質より量の方が今は重要だからだ。一度に買う数が多ければ多いほど、買い物のための回数が減り、結果的に得なのである。そして、デパートの外でヨーヨーで遊んでいる少年とチャオの延長線上にあるビルと鉄球をぶら下げたクレーン車をボーッと眺めていると、満足そうな表情のスラッシュがデパートから出てきた。だが、スラッシュはそのビルを見るとポヨを「?」にした。
「おかしいなぁ。普通なら30分前から解体作業が行われているはずなんだけどなぁ」
「何かあったのかな?行ってみようか」
ディとスラッシュは駆け足でビルへ向かう。だが、ビルに近づけば近づくほど野次馬は多くなっていく。二人はそれをなんとか突破すると、近くにいた警察官に話しかけた。
「あのぉ、なんかあったんですか?」
「俺の記憶が正しければ30分前から始まっているはずなんだが」
「うん。それはね、作業開始前に盗賊団が中に逃げ込んでね。それで未だに追いかけているわけなんだよ。途中で盗賊団が爆薬で道を塞いでチャオ部隊しかまだ通れていないんだ。それと、中に関係の無いチャオが入り込んでね。それでできないってわけなんだよ」
「へぇ。あれか?」
スラッシュはビルの窓を指さす。窓に盗賊団だけでなく、警察の帽子をかぶったチャオまでが追いつめられている。高いところでよく見えなかったが、鎌らしき物が見えた。
「よっしゃ。行くぞ、ディ」
「うん。でも、どうやって?」
「あれに登る」
と、スラッシュはクレーン車を指さす。二人はクレーン車の頂上になんとか登り、スラッシュがディから最も固い木の実を渡して貰い、それを窓に投げつける。そして、割れた窓に向かって飛び、中へ入った。状況は、窓から見た時よりも酷くなっていた。一部のチャオの腹部には傷があり、ぐったりとしている。そして、二人の正面には鎌を持った黒いダークオヨギチャオがいた。
「ククク、なんだお前達は」
「お前、何をしているんだ」
「ククッ、見ればわかるだろ。ポイント稼ぎだ。こうやった方がポイントが高いんでな」
「気を付けろ、ディ。こいつの殺気は異常だ…」
スラッシュが言い終える前にディは黒いダークオヨギチャオに向かって走っていた。そして、ディは黒いダークオヨギチャオの顔面を殴った。
「なかなかやるようだが、その程度では痛いだけだぞ?」
「お前は…なんでこんなことをするんだ」
「許せないか?」
「あぁ。絶対…!!」
「ふんっ。ならば俺を1秒でも倒してみろ。その力に免じて今回はやめてやろう」
そう言うと、黒いダークオヨギチャオは後ろに飛び退いた。ディが右手をナイフに変化させ、攻撃しようとしたが、スラッシュに止められる。
「普通に攻めてもまず勝てない。あいつの殺気は薄々それを感じさせる」
「でも、それじゃあどうしろと…」
「俺に任せろ。俺の能力ならば、戦えるだろう」
と言い、カメレオンを取り出してキャプチャーする。そう、スラッシュは透明になった状態で戦おうとしているのである。相手に自分の居場所が知られない限り安全なのである。
「わざわざ見えない者を相手にする必要は全くない」
「おっと。危ない」
ディは黒いダークオヨギチャオが鎌を振る瞬間、倒れるようにして避けた。そして、黒いダークオヨギチャオは後ろを振り返り、鎌で何かを防御した。スラッシュの攻撃だ。
「ちっ!駄目だったか」
「まぁ、なかなかやるな。面白い、面白いぞ」
ディはスラッシュに近寄り、黒いダークオヨギチャオの後ろの窓から見える風景を見た。そこには未だに動かないクレーン車と夜が明け出てきた太陽が見えた。