第六話~ドライブシステム~
シラウズとベニマルのテントに着いた四人は、ひとまず休憩していた。テントの中には、生活に最低限必要だと思われる道具は一通りそろっていた。また、狩りでもするのか、サバイバルナイフ、槍、斧、ナタ、網、包丁などがあった。もう何日も生活しているのか、大分生活感が出ていた。
「で?見せたいものって何なんだ?」
テントの中を見回していたユリカゲが出し抜けに訊いた。
「・・・それなんだが、まずはこれを見てくれ」
シラウズが、麻で編まれた袋から二つの透き通った結晶を取り出した。それは、煌びやかでありながら、妖艶で、吸い込まれそうな不可思議な光を放っていた。ユリカゲとアスカナは、少しの間その光に見とれる程だった。いびつな幾何学模様を立体にしたような形は、見る角度によってどんな形にも見受けられそうだ。そして、中心部分にはその怪しげな光の源と思われる球体があり、幾重にも折り重なった複雑な光が伸びている。表面で屈折した光は、まるで空間を歪ませる様に絡み合い、それでいて思い思いの方向に走っている。先ほどから見惚れているユリカゲとアスカナは、催眠に罹ったように目蓋がとろみ、その場にコロンと眠り込んでしまった・・・
・・・翌朝、ユリカゲはハッとして起き上がった。隣にはアスカナが大の字になっていびきを掻いている。シラウズとベニマルの姿は無い。それと、狩りの道具も無くなっている。おそらく狩りに行ったのだろう、と思ったユリカゲはアスカナを起こすため身体を揺らした。
「うーーん・・・むっ!?」
夢でも見ていたのだろうか、アスカナは一瞬うなされてから即座に目を覚ました。
「あ、あれ?ユリカゲ?じゃあさっきの木の実の怪物は・・・?」
「どんな夢見てんだよっ!ここはテントの中だ。あの二人は狩りに行ってるらしい。」
「ふぁえ?二人の木の実の怪物が狩りに?」
アスカナはまだ寝惚けているようだ。目が半開きになっている。と、そこへシラウズが帰ってきた。
「おっ。二人とも起きてんな。朝飯取ってきたぞ、ほれ。」
シラウズは串に刺さった焼き魚と木の実を二、三個差し出した。
「おう、サンキュ。あれ?ベニマルは?」
アスカナは木の実にかぶりつきながら辺りを見回した。
「ああ、もうすぐ来るだろ。」
シラウズがそういった途端、後ろからベニマルがひょっこりと顔を
出した。
「おーーっす。」
「来たかベニマル。おっしそれじゃ昨日の話の続きだ。しっかり聞けよ。」
「あ、そうそう。何かあれ見ると眠くなってくんだよなぁ。何でだ?」
「まあ聞けって。まずこれは「ドライブ」。この前も話したが「ドライブシステム」においてエネルギーが最も小さい。だが最も使い勝手がいいんだ。」
シラウズはまたあの立体を取り出した。
「うわっ!やめろって、また眠くなるだろうが!」
アスカナはあわてて目を隠す。
「だーいじょうぶだって。「ドライブ」の催眠効果は一回だけだ。ほら眠くならねえだろ?」
そう言ってシラウズは二人の目の前にドライブをちらつかせる。
「あれ?本当だ・・・」
「一回催眠にかかりゃドライブシステムが使えるようになった証拠だ。ドライブシステムを使えるやつらはそれを「覚醒」と呼んでいる。ま、お前らもこれで無事「覚醒」が済んだってことだ。「覚醒」が済んだやつは「エナジードライブ」が手に入る。ほら、お前らの身体が光り始めたぞ。」
シラウズが言うとおり、二人の身体が輝き始めた。ユリカゲの身体は漆黒に、アスカナの身体は深い紫に光っている。それと同時に、ドライブと同じような光を放つ立体が現れた。それはドライブよりも遥かに大きく、力強い光を放っていた。形もドライブともカオスドライブともちがい、六角錐を二つ重ね合わせたような形だった。
「それが「エナジードライブ」だ。それを手にとって「キャプチャ」と唱えてみろ。」
二人はエナジードライブを手に取り、深く深呼吸して唱えた。
「キャプチャ!」
二人が大声で唱えた途端、光の粒が二人の周りを飛び交い始めた。やがて、二人の周囲を周っていた光は急に弱くなり、終いには弾けて消えてしまった。すると、二人の頭上からカオスドライブが降りてきた。ユリカゲのは黒、アスカナのは紫だ。
「あれ?カオスドライブが落ちてきた。」
アスカナが首を傾げる。
「よし、ちょっと移動するぞ。」
・・・そして四人は草が生い茂る広場にでた。
「なあなあ、今から何すんだ?」
カオスドライブをいじりながらアスカナがたずねた。
「今からお前らにそのカオスドライブをキャプチャしてほしい。そして能力を手に入れるんだ。」
「能力を手に入れる?どうするんだ?」
ユリカゲが不審そうに尋ねる。
「キャプチャすればわかる。やってみろ。」
それを聞いて観念したのか、二人はカオスドライブを掴んだ。そして唱える。
「キャプチャ!」
唱えると同時に、二人の意識はどんどん遠ざかって行った・・・