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拡音の力で世界中に届く調べ―
見事な音楽が、世界中に響く―
全てを終わらせる為の力へと、換わってゆく。
「自分―?」
衝撃を受けたのは、見るまでも無く分かった。
声には怒れ狂っていた時の破片はわずかも無く、心ここに在らずの面持ちであった。
「そっちを変えれば、自ずと変わってくるであろう。」
「「不幸」の現実も、な…。」
「………。」
顔をうつむかせて、考え込んでいる様子のミカエルに、微笑を浮かべる日高と、
意識体の中だけで、自分の盟約した、あれほど崩れていた少年が、たった今、誰よりも強い相手に対峙している事を、誇らしく思うアルシエルに、
声が届く。
「そう、か…。間違って、いたのか…。」
顔を上げ―かかった、その時。
稲妻が轟き、危うく日高は貫かれるところだった。
「!」
「だが、もう遅い。」
浮かべてあった表情は、完全な笑み。
堕天使ルシファー、ミカエル=サラウンド、支配の証であった―
「おいおい。本当に来るのか?」
若い青年が、不審げも無く、訊くだけ訊いた。
“右翼”双葉 水成とは、彼の事である。
途方も無い、地平線すら見える、大草原。そこに、集まっていた。
「来るだろうよ。あいつの事だ。」
“左翼”カーレッジ=ビリーが、返答する。
次いで、“鉄羽”八ヶ岳 宗一は、
「しかしまあ、あんなでけえ神殿にあったのが、これ一つなんてなあ。」
「これ一つで充分ですね。偉大なる名を響かせる鍛冶師が創りし、伝説の一品―」
「音を奏でるためだけに生まれた者じゃしの。」
ジェネティが続けようとした言葉とは全く違う言葉を、
盟約主のディベロッフが取ってつけたように言った。
“朱雀”の異名を持つ、〝チャオ〟である。
「でもさ、決戦の土地としては―殺風景じゃない?」
「“千羽”…少なからず被害を治めるのが、君の得意分野だろう?」
「ははは…“千羽”も大変だ。“前縁”に頼られたんじゃ、キリが無いね。」
“千羽”伊藤 彩夏。“前縁”フラン=ラザ=フィレア、“後縁”クラン=ラザ=フィレア。
いずれも、戦闘として名高い「仲間」である。
そして、空中要塞から戻ってきた一人。
「…覚醒したみたいだよ。」
“熾天使”真瀬 明日香、盟約主セーレが、探知した。
「遂にか…。」
「歌は?」
「そろそろ…。」
「よし。来るぞ!」
天空から轟雷が閃き、大草原〝ハイラル〟、決戦の地へ、舞い降りた。
堕天使ルシファー、光臨…それが、行われたのである。
―同じ道を行くと言う あなたの笑みは―
「あいつはまだかよ!」
「締まりませんね。どうも“鳳”は―」
「呑気に解説してる場合じゃねえだろ!」
雷は一つにまとまって行く。その姿は、異様に小さく、そして可愛げに溢れていた。
その代償としてか、大きな電撃に守られていたが。
「俺の光臨先を読むとは、なかなかじゃないか?」
それが、体に似つかわしくない低い声で、確認するように言った。
電撃まといし、雷鳴轟き、稲妻迸る―
「ルシファー!!」
そこへ、
対する宿敵、
一人の少年と、一人の悪魔が、
青天の如く翼を用いて、飛んで来た。
稲妻を華麗に避けて、その中枢、ルシファーの元まで行くと、
右手から放たれる冷気で、ルシファーはわずか揺らいだが、
すぐさま稲妻に捉われて、日高 立は弾き飛ばされた。
「いっつっつー…。」
「相も変わらず、無茶するヤツだな。」
「おかえり!」
仲間の声に苦笑をこぼす日高が、再び、立ち上がる。
「よし…。出来るだけ抑えてくれ。その間に―」
「―天翔ける力を、手に入れる。」
「任せとけ。俺ら“十翼”を、なめんなよっと!」
十人にして一概の、“十翼”のうち、八人が、
日高を信頼し、全てを託す。
―どこまでも どこまでも 澄み切っていた―
…右手を挙げる。その力の温かさに、氷が溶けないかと訝しむ。
そんな暇は無いと思いながらも、心中、苦笑にまみれている。
大きな力。これを振るえば、世界は滅ぶ。以前の彼ならば、そうしていただろう。
だがしかし、今は違っていた。
それは、世界を守るために。
いつか、いつかと信じて。
純粋な、純粋な力を振るう。
一つに束ねられた、世界中の人々の力は、
やがて少年の右手に集結させられ、最後の歌の詩と共に、翔ける。
稲妻を抑えてくれる仲間のためにも。
自分を信じて歌う、人々のためにも。
そして何より―
―誠意と愛情を、更なる誠意と愛情で返してくれた、彼女のため―
―やはり あなたはどこまでも 澄み切っていた―
「永久に連なる力よ。過去・現在・未来に措いて、かを葬る。」
「いくぜ、シエル。」
たった一人、まとう雷撃の中枢に、飛び込む。
その、青天の翼を持つ少年の姿に、感極まる。
永久に、封じるため。
永久に、悪を絶つ為。
「無謀な…!」
「コキュートス!!」
その力は、全てに渡る願いの力は、
純粋ゆえに罪を犯した〝チャオ〟―ルシファーの元にも、
…届いた。