4 ―

 「…まずい。」
 「何してんだよ。どうやって溶かすつもりだよ。」
 「これじゃあ、取り返しつかないね。どうやって「悪魔の軍勢」の残存を滅ぼすつもり?」

〝ハイラル〟にて。
世界中に幸せの声が沸き起こったものの、この永久凍結された〝チャオ〟は、
溶けない。
世界のどこかに残存勢力がいる。はずなのであるが…。
ルシファーの封じられた今、その術と居場所を知る者はいない。

 「どうやって溶かす?」
 「む…立。」
 「俺!?」

起動に莫大な力を必要とする、「コキュートス」の術法。
それは、一命を永遠に、凍結する術法。
ゆえに溶けない。

 「はあー…。」

一同そろって、九人そろって、溜息をついたその時。
紅き翼と一緒に、それはやって来た。
どこまでも、やかましく。

 「どうしたの、みんな?」
 「ああ、“鳳”が永久凍結してしまっ―」
 「そういや、どうやって溶か―」
 「でも、そんな方法がっ―」
 「え…―」
 「なに?―」
 「「コキュートス」の解析が出来れ―」
 「いくら私でも出来な―」
 「そんな事言うな…よ?―」

 「どうしたんだ?お前ら?…あ…。」

そこに、いたのを、見た。
白麗の笑みで、偽り無しの優しさで、包み込む力で、
それは、神鳥フェニックスを盟約主に持つ、人間。
古風な苗字の読み方の、人間。

幸山 深雪。本人だった。

 「う、嘘…?」
 「へっへー。みんな、フェニックスの〝再生〟、忘れてたでしょ?」
 「ああっ!!」

フェニックスだけが持つ、最強最大の治癒法。それが、〝再生〟。
どんなものでも、壊れたとしても、元に戻せる。それが、〝再生〟。
つまり、死んでも、生き返る。

 「そ、そうだ!〝業火〟でコキュートスを溶かせるか!?」
 「出来ぬ事は無いが…。その後はどうする?」
 「えっと…。」

うまく頭が回らなくなってきた日高を支えるため、無意識に反応する。
彼女―幸山 深雪が。

 「ルシファーの力で、世界中から悪魔を消し去る。それがいいよ。」
 「ですね。さすがは“凰”。」
 「じゃ、いくよー!」
 「ちょ、待て、早―」

ほんの、一振り。
コキュートスが、跡形も無く溶けてしまった。
気絶しているルシファーに、お辞儀をして、
日高は、両手を掲げる。

 「(…消し去る…のも、もったいないかな…。)」

そんな事を考えた瞬間、名案が思いついた。

 「(みんなが、仲良くしてくれると良いんだけど…そうだ。)」

更に名案が。
今やもう、負の感情は無い。
ルシファーにでさえ、悲しみの欠片も見られなかったのだから。

そして、悪魔の所業、〝荒天〟は、幕を閉じた。
一つの生命たちを、残して。



“朱雀”ジェネティ・ディベロッフは呆れる。

 「あなたという人は、何がどうなるか分かっていないようですね。」

“千羽”伊藤 彩夏は、感激する。

 「やっと終わったね。長ったらしかったりゃありゃしない。」

“前縁”フラン、“後縁”クランは、揃って賞賛する。

 「“鳳”日高 立さん。」
 「ありがとう…と言って置くべきか。」

“鉄羽”八ヶ岳 宗一は、相変わらずである。

 「ふわぁー…さっさと帰ってパーティーだな。」

“右翼”双葉 水成は、現状を語る。

 「〝チャオ〟が存在した今、王として世界を治める役割はやはり、ジェネティがするべきだな。僕は、田舎に引っ込むとするよ。」

“左翼”カーレッジ=ビリーは、調子良く、戯言を残して行った。

 「運命がゆえするなら、また会うとしよう。」

“熾天使”真瀬 明日香は、諦観気味に言う。

 「…ま、良いんじゃない?」

“凰”幸山 深雪は、理想を思っていた。

 「これで、平和になると良いね。」

“鳳”日高 立。
便宜上、世界を救った張本人。
この世に〝チャオ〟を生み出した人間は、生まれ変わった〝彼〟を見て。

わずか笑みを見せながら、溜息と同時に、言った。

 「何だ―悪魔っていうよりは、まるで―」

二度と、会うことの無い様、いざに備える為、
名義だけの悪魔を、地底深くに封じた後、
不況を覆し、挙句、世界まで保ってしまった少年は、
苦し紛れでは無い笑みをそれに乗せて、
青空の如く果てない翼を羽ばたかせながら、
故郷へと戻って行った。

だがしかし。

 「言っとくけど、深雪。」
 「負けるつもりは無いからね、でしょ?」
 「いやいや、折角平和になったんだから、そんないさかいは…。」

 「「あんたが言わないの!」」

日高 立の「不幸」の肩書きは、外れていなかった。
それでも、もう、それをどう取るかは、彼次第。
少しだけ成長した少年は、例え何が来ようとも、既に恐怖は感じなかった。
それを大きな成長と見つつ、少年は飛翔する。

どうしようも無い「不幸」だからこそ。
それを外すよう、努力すべき。
その努力が無駄だというならば、なおさら。

全てを語るのは、全てが結末を迎えてから。
日高 立は、そう信じるまでも無く、確信していた。

なぜなら。

 ―今の俺の境遇を思えば、そうなるだろ?―
 ―それとも―


 ―俺の思い違いか?―

純粋ノ悪魔   完

このページについて
掲載号
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号
ページ番号
9 / 9
この作品について
タイトル
純粋ノ悪魔
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号