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「…まずい。」
「何してんだよ。どうやって溶かすつもりだよ。」
「これじゃあ、取り返しつかないね。どうやって「悪魔の軍勢」の残存を滅ぼすつもり?」
〝ハイラル〟にて。
世界中に幸せの声が沸き起こったものの、この永久凍結された〝チャオ〟は、
溶けない。
世界のどこかに残存勢力がいる。はずなのであるが…。
ルシファーの封じられた今、その術と居場所を知る者はいない。
「どうやって溶かす?」
「む…立。」
「俺!?」
起動に莫大な力を必要とする、「コキュートス」の術法。
それは、一命を永遠に、凍結する術法。
ゆえに溶けない。
「はあー…。」
一同そろって、九人そろって、溜息をついたその時。
紅き翼と一緒に、それはやって来た。
どこまでも、やかましく。
「どうしたの、みんな?」
「ああ、“鳳”が永久凍結してしまっ―」
「そういや、どうやって溶か―」
「でも、そんな方法がっ―」
「え…―」
「なに?―」
「「コキュートス」の解析が出来れ―」
「いくら私でも出来な―」
「そんな事言うな…よ?―」
「どうしたんだ?お前ら?…あ…。」
そこに、いたのを、見た。
白麗の笑みで、偽り無しの優しさで、包み込む力で、
それは、神鳥フェニックスを盟約主に持つ、人間。
古風な苗字の読み方の、人間。
幸山 深雪。本人だった。
「う、嘘…?」
「へっへー。みんな、フェニックスの〝再生〟、忘れてたでしょ?」
「ああっ!!」
フェニックスだけが持つ、最強最大の治癒法。それが、〝再生〟。
どんなものでも、壊れたとしても、元に戻せる。それが、〝再生〟。
つまり、死んでも、生き返る。
「そ、そうだ!〝業火〟でコキュートスを溶かせるか!?」
「出来ぬ事は無いが…。その後はどうする?」
「えっと…。」
うまく頭が回らなくなってきた日高を支えるため、無意識に反応する。
彼女―幸山 深雪が。
「ルシファーの力で、世界中から悪魔を消し去る。それがいいよ。」
「ですね。さすがは“凰”。」
「じゃ、いくよー!」
「ちょ、待て、早―」
ほんの、一振り。
コキュートスが、跡形も無く溶けてしまった。
気絶しているルシファーに、お辞儀をして、
日高は、両手を掲げる。
「(…消し去る…のも、もったいないかな…。)」
そんな事を考えた瞬間、名案が思いついた。
「(みんなが、仲良くしてくれると良いんだけど…そうだ。)」
更に名案が。
今やもう、負の感情は無い。
ルシファーにでさえ、悲しみの欠片も見られなかったのだから。
そして、悪魔の所業、〝荒天〟は、幕を閉じた。
一つの生命たちを、残して。
“朱雀”ジェネティ・ディベロッフは呆れる。
「あなたという人は、何がどうなるか分かっていないようですね。」
“千羽”伊藤 彩夏は、感激する。
「やっと終わったね。長ったらしかったりゃありゃしない。」
“前縁”フラン、“後縁”クランは、揃って賞賛する。
「“鳳”日高 立さん。」
「ありがとう…と言って置くべきか。」
“鉄羽”八ヶ岳 宗一は、相変わらずである。
「ふわぁー…さっさと帰ってパーティーだな。」
“右翼”双葉 水成は、現状を語る。
「〝チャオ〟が存在した今、王として世界を治める役割はやはり、ジェネティがするべきだな。僕は、田舎に引っ込むとするよ。」
“左翼”カーレッジ=ビリーは、調子良く、戯言を残して行った。
「運命がゆえするなら、また会うとしよう。」
“熾天使”真瀬 明日香は、諦観気味に言う。
「…ま、良いんじゃない?」
“凰”幸山 深雪は、理想を思っていた。
「これで、平和になると良いね。」
“鳳”日高 立。
便宜上、世界を救った張本人。
この世に〝チャオ〟を生み出した人間は、生まれ変わった〝彼〟を見て。
わずか笑みを見せながら、溜息と同時に、言った。
「何だ―悪魔っていうよりは、まるで―」
二度と、会うことの無い様、いざに備える為、
名義だけの悪魔を、地底深くに封じた後、
不況を覆し、挙句、世界まで保ってしまった少年は、
苦し紛れでは無い笑みをそれに乗せて、
青空の如く果てない翼を羽ばたかせながら、
故郷へと戻って行った。
だがしかし。
「言っとくけど、深雪。」
「負けるつもりは無いからね、でしょ?」
「いやいや、折角平和になったんだから、そんないさかいは…。」
「「あんたが言わないの!」」
日高 立の「不幸」の肩書きは、外れていなかった。
それでも、もう、それをどう取るかは、彼次第。
少しだけ成長した少年は、例え何が来ようとも、既に恐怖は感じなかった。
それを大きな成長と見つつ、少年は飛翔する。
どうしようも無い「不幸」だからこそ。
それを外すよう、努力すべき。
その努力が無駄だというならば、なおさら。
全てを語るのは、全てが結末を迎えてから。
日高 立は、そう信じるまでも無く、確信していた。
なぜなら。
―今の俺の境遇を思えば、そうなるだろ?―
―それとも―
―俺の思い違いか?―
純粋ノ悪魔 完