3 乱戦

右向きに交わした「魔法」を、緑の弾丸と認識する間も無く、次の一手を考慮する。
二対一という絶対的に不利の立場、はっきり言えば勝利するのは無謀とさえ言えた。
だがしかし、彼女には絶対に譲れない箇所がある。

他でも無く、日高 立、彼が信頼してくれたという事実。
それだけで、絶対になるのだ。

 「はあっ!」

セーレの“治癒の風”の流れに汲み、「僧侶」の治癒法を分析する。
その分析こそが、勝利の一手に繋がるから、であった。

最も、セーレは戦上手な方では無い。
“治癒師”の謂れの通り、治癒し、回復を主とする悪魔―いや、精霊であるのだ。
ところが、打って変わって、真瀬は、これを転機。
あっという間に「戦闘用」にしてしまった。

その名の通り、“熾天使”…セラフィムという片手剣を創り出し、
治癒の力の流れ、治癒の三段階解析のうち、分析、把握、治癒の治癒で止める。
これぞまさに、“治癒師”最大の戦闘法である。

敵は、「僧侶」が回復に回り、「魔導師」が攻撃に転じる。
つまり、「僧侶」が討たれれば、「魔導師」は動じる。

 「あ、相手はどうやら…あまり有効な攻撃手段は持っていないようです…。」
 「余裕だな。だが、余裕過ぎる。何かが引っかかる。」
 「(術中にはまってくれてるかな?)」

元より、頭脳の明晰な方では無いはずの真瀬も、かなり冴えていた。
この手が破られれば、この手で防ぎ、またこの手を打ち―
将棋の試合、それを見ているようだ。

「魔導師」は、短気な性格がゆえして、決戦してしまおう、と、力を振り絞る。
これが、術中。

 「(よし。)」
 「アクエリアス!」

水の大魔法を、その手から唱え、放つ。と、間も無く雨…否。
津波が周囲から、迫って来た。
しかし、予測通り。この程度ならば。

 「(アクエリアスの次は、グラフィアスの呪文が来ます!)」

分析の主、セーレが忠告すると、礼を言っている暇も無く、手を打つ。
まず、治癒法の開始。津波の水は、「魔法」の流れを汲む。
だから、治癒の流れに巻き込み、静止させ、吹き飛ばす。

 「追撃のぉ―!」
 「と、止まった…?」

 「「グラフィアス!」」

「両者」一斉に叫ぶと、剣戟の様な衝撃波が、幾つもに連なり、飛翔する。
アクエリアスの津波に守られた真瀬は、津波を消し去ってくれた「魔導師」に、感謝の念を込めて、ウインクした。

 「ちっ」
 「ひあっ!?」

衝撃波が、「僧侶」の目前で広がる。これには、「魔導師」も驚愕する。
そして―衝撃波が「僧侶」を包み込み、文字通り「消した」。
分析、把握、治癒、ではなく、治癒を逆流させ、力を吸収し、弾けさせたのだ。

 「「僧侶」は討った!次はあなたよ、「魔導師」!」
 「よくも…図に乗るな!!」

怒れ狂った「魔導師」が、戦略多の真瀬に取り込まれるのに、差ほどの時間はかからず、
戦闘終了。まさに、八ヶ岳と同時の時刻に。


 「我が、〝八剣〟を、見事だ……」
 「ういー…」

大剣を重たそうに、地面に突き立て、滅び行く「剣士」を前にしてから、ふと。
溜息を付く。

 「問題は、こっからだよなあ。ったく、じじいめ。もっとマシなところに創れっての。」

独り言を呟く程に、八ヶ岳は高揚していた。
そう、勝ったのだ。「悪魔の軍勢」、「五帝」の一角、「剣士」に。
彼がした事と言えば、単純明快。
〝八剣〟を通り越しただけだった。

一点集中を糧とする〝八剣〟は、それが当たらなければ意味が無い。
もちろん、彼は間一髪、避けられた、といった具合だった。

 「しっかしまあ…あいつら、しっかりやってくれてんだろうなぁ?」

二つの翼が、この地へ向かう事を知っている彼は、
心にも無い疑いを、口にした。


 「ルシファー。」
 「はい。五帝はどうやら、全滅のようです。」

城、その頂点の極まりに座を置くミカエルは、部下の不意に不意を重ねた所業に、腹を立てていた。
「剣士」は、“鉄羽”八ヶ岳 宗一に。
「魔導師」と「僧侶」は、真瀬 明日香に。
そして、「龍騎士」と「武道家」は…。

“左翼”カーレッジ=ビリーと、“右翼”双葉 水成に、討たれた。
盟約主、フェニックスを宿す“凰”に、忠実なる「悪魔の軍勢」幹部は、討たれた。
もはや、打つ手は一つ。

 「…僕が出る。」
 「はい。その方が良いでしょう。」
 「温存して置きたかったが…仕方ないな。」

王座の椅子、その一言で形容が済んでしまう、そんな椅子から、
ミカエルはやっとの事で、重い腰を上げた。
かなり荒れている人間が、こちらへと向かって来る。
地団駄を踏んでいる様に、やかましく音を立てて。
それは、城内の頂から、やはりやかましくやって来た。

 「「悪魔の軍勢」…「勇者」ミカエル=サラウンドォ!」
 「堕天使ルシファー!お前の悪行もこれまでだ!」

強烈な微笑と共に、それは、やかましくやって来た。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号
ページ番号
6 / 9
この作品について
タイトル
純粋ノ悪魔
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号