1 聖誕

 「なあ、一つ、訊かせてくれ。」

漆黒と言うには明るすぎる、純白というにも暗すぎる。
中途半端な少年が声をかけた。

 「何で世界はこうも―思い通りにならないんだ?」
 「知るかよ。」

偉く真面目ぶった友人の態度に、わざとつっけんどんに返す男は、
少年と一緒に笑った。

 「日高、冗談言うんだったら、もっと笑って言えよ。」
 「悪い。」

少年は―日高 立。小学校三年生以内に習ったその漢字の読み仮名は、ひだか りゅう。
幼き頃から家族に不平不満を持ちいる少年であった。

 「ところで、谷本―」
 「ん?」
 「―悪魔とかいうの、最近ニュースでよくやってるよな。」

谷本 博明…たにもと ひろあき、なる同級生は、不信そうに頷いた。

 「また出たらしいなぁ…こっちに来ないと良いけど。」
 「来たら来たで、どうにかなる…と思うね。」
 「確かに。」
 「(そうだな…さっさと出てきて欲しい、こんな世の中だし。)」

密かに思う、日高の胸内を放って置いて、恐怖にすくむ話題を変えようと、谷本は、

 「今日の授業なんだっけ?」

と、気楽に話しかける。
そんな、いつも通りの日常に、不安の陰も差すことが無い。
だが、日高はその「不安の陰」を求めていた。

 「(もう生きてるのは嫌だな。)」

とある事情から、そう思ってしまう少年だった。
少年に科せられた、生後の肩書きとも言える名目は、「不幸」。
そう、何をやっても上手く行かないのだ。

努力は惜しまない。性格は明るく、一度決めたらやり通す。
常に冷静な判断を持ち合わせ、しかしその実力を面には出さない。
少しばかり「言い回しがくどい」といった面もあるが、比較的友好的な少年である。
しかし、上手く行かない。

「不幸」の名目。肩書き。
それを親に話したら、「生活難で困っている人々は」だの、とか言われてしまった。
少年の考え方は全く違うのである。

 「(いくら生活が並だって、それが幸せだと思えなければ意味無いね。)」

価値観の相違―それが、幸不幸の最大の「分岐点」だというのだ。

つい先日だって、悪意があってやった訳ではないのに、少女は必ず自分のせいにする―
今までずっと頑張ってきたのに、他の人にばかり優しくする―

といったつまらない「嫉妬」を抱えつつも、そんな自分が嫌になりつつも、
この〝激痛〟は止まってくれない。
誰でも良いからどうにかして欲しいほどの痛み。でも、どうにもならない現実。

 「(どうなってんだよ、この世界は―)」
 「おーい、日高?」
 「んあ?―悪ぃ!」

ついつい、考え事をしてしまう、日高 立。彼は、そんな少年だった。

趣味を訊かれると、必ず答える言葉は「特に無し」。
夕焼けの空を見上げて、物音一つしない街路のど真ん中、いつもの帰り道と言う日常を謳歌するのが大好きな少年である。
家に帰れば、また地獄が待っている。嫌になる。
かといって、他に帰る所は無い。と言う訳で、部屋に篭もる。
そんな彼が、たった今、一番好きなゲームは、

 「(ああ―さっさと帰って〝チャオ〟を育てたい―)」

任天堂のゲームの、ソニックチーム作成、ゲームキューブのソフトの、―言うまでも無いだろうと思う。
ソニックアドベンチャー云々、それらのシリーズだ。

この少年が、今の精神状態でなぜ、このようなゲームのジャンルに惚れこんだかと言うと…。

日高 立。彼は不幸の身の内に、不平不満を隠蔽し、明るく過ごそうと努めている。
ゆえに、人を信頼する、といった感情に劣っていた。
しかしながら、〝チャオ〟なる純粋な生物は、純粋さ所以の「可愛らしさ」がある。
そう、〝チャオ〟は素直で、これが〝チャオ〟そのものなのだ。
着飾ったり、あるいは自分を強く見せようとする人間たち…とは、全く正反対。

純粋なる存在。であるからの〝チャオ〟。

 「(悪魔の方が、よっぽど理解出来る行動を取ってるよな―)」

そんな、少年だった。

 「…で、今日の授業何だっけ?」

いつもの日高の姿に安堵しつつ、谷本は呆れ顔で再度、訊ねた。
覆されることの無い「日常」―二度と取り戻せない「過去」―
今が一番幸せだという事を実感するに関しては、谷本 博明の方が上手であった。


時、進みて日常の白昼。
少女は友人との会話を楽しみつつも、何か「欠けたモノ」を感じていた。
給食といった、昼食を摂りながら。

 「(何か…違和感がある…。)」
 「深雪?深雪ー?」
 「へ?えっと、何?」

普段なら、〝超〟を付けても良いほどの友好。
友の事を一に考え、「差別・偏見」といったものの見方を全くしない少女。
幸山 深雪。さちやま〝の〟 みゆき、といった古風な苗字の少女。

 「どうしたの?今日の深雪…どこか変だよ?」
 「ううん、何でもない。」
 「そお?変だよねぇ?」

団欒の輪を創る友にも話しかけ、訊ねる。幸山の無二の親友とも言える彼女は、

 「明日香…深雪にもローになる時があんのよ。そっとしといてあげなさいって。」
 「でも…しいちゃん…!」
 「良いと思う。深雪は深雪。性格が変わった訳じゃない。」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号
ページ番号
2 / 9
この作品について
タイトル
純粋ノ悪魔
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号