~03~

必要な買い物を終えたので、そのまま帰ろうとしたのだが、気が付くとヨコシマがどこにもいない。
きょろきょろと見回すと、ヨコシマはすぐに見つかった。
おもちゃ売り場の前で足を止めて、じっとおもちゃを見ている。
俺は仕方なく、ヨコシマの方に駆け寄る。
「ほら、さっさと帰ろう」
「あれが欲しいちゃお!」
ヨコシマが指した方向を見ると、そこにはチャオタワーと名付けられた、巨大な遊具が据え置かれていた。
値札、15000円。

「無理」
俺が即答すると、ヨコシマは顔を膨らませる。
「えー、なんでちゃおか?」
「なんでもかんでもないだろう?15000円もするものは買えない。予算オーバーだ」

ヨコシマは、にんまりと不敵な笑みを浮かべた。
「そんなケチなことを言って、チャオが転生できなかったらどうするちゃお~?」
自分の病気をだしにするとは、とことんイヤなやつだ。
俺は病気のチャオだからって、特別扱いしたりしないのだ。

「俺は、最近引っ越しを終えたばかりで、あまり無駄遣いできないの!」
「ここはチャオへの投資だと思えちゃおー」
「逆にもし転生できなかったら、15000円が無駄になってしまうじゃないか」
俺がそう答えると、ヨコシマはなんだか、とても悲しそうな顔をした。

「・・・分かったちゃお。お前がそう言うなら、もっと安いものにしておいてやるちゃお」
そういってヨコシマは店の中に歩いていき、ワゴンに積まれたミニカーのうちの一つを手にとって、俺に手渡してきた。
「はい、これ。300円」
俺はなんだか、ばつが悪いような気分になって、素直にそれを買ってやることにした。



チャオショップを出たあと、俺たちは近くのファミレスで食事を取った。
俺の家は、ここからそう遠くない。
ファミレスを出て、2人で歩いて帰ろうとしたそのとき、ヨコシマが俺のコートの裾を引っ張る。
「あれ、何ちゃお?」
ヨコシマが指さした方向にあったのは、近くのチャオ幼稚園体験入園募集の看板だった。

「チャオ幼稚園だけど?」
「いってみたいちゃお!ほら、体験入園が無料だって!」
・・・ひょっとして、まだお金のことを根に持ってるのか?


ともかく、俺たちはチャオ幼稚園の体験入園に参加してみることにした。
なんの連絡も入れていなかったにもかかわらず、
チャオ幼稚園の園長(森野さんというそうだ)は、快く俺たちを迎え入れてくれた。
入るやいなや、ヨコシマは早速友達をみつけて、クラスへ遊びに行ってしまった。しょうがないやつだ。
俺は園長室へと通され、そこで園長先生と話をすることになった。

「今日は、なんの連絡もなく、突然訪問してしまってすみません」
「いえいえ、うちは特に連絡の必要はないんですよ」
「あっ、そうでしたか」
俺は頭を下げる。

「ところで、もう一つ謝らなければいけないことがあるんです。」
俺の切り出し方に、園長は少し、戸惑った顔をした。
「と、いいますのは?」
「実はあの、ヨコシマなんですけど、病院で余命10時間だと宣告されていて
 ・・・あ、今ちょうど2時頃なので、あと7時間ですか。
 それで今回の所は、体験入園だけってことになるかもしれないんです」

園長先生は俺の台詞を聞いて、深く考え込んでしまった。

「すみません、こんな事情を抱えたまま来てしまって。でも自宅は近いので、
 今後他のチャオを飼うようになったり、もしヨコシマが転生出来たら、必ずここを利用しようと思ってます。
 いや、ヨコシマの飼い主として、必ず転生させてやらないといけませんね」
「あなた、チャオを交換してもらわなかったんですね」
「え?」
「病気のチャオが生まれたら、普通は購入店に行って交換か返金してもらいますよ」
・・・言われてみれば、確かにそうかもしれない。


園長先生との話のあと、俺たちはいくつかの教室を巡って、園内の見学をさせてもらった。
その後はヨコシマいる教室へと向かい、ヨコシマが友達と遊ぶ様子を眺めていた。
仲間とともにいるヨコシマは、とても楽しそうだった。


そしてもうそろそろ幼稚園も閉園するという時刻になってきた頃、
ヨコシマと仲良くなっていたオニチャオの迎えが来たらしく、ヨコシマにバイバイをしていた。
「明日もまた遊ぼうちゃお!」

それを聞いたヨコシマは少しためらい、俺の顔を伺ってから答える。
「ごめんね、明日は、来れるかどうか分からないちゃお」
それを聞いて、ポヨを疑問符にするオニチャオ。

「どうしてちゃお?入園しないちゃおか?」
問い詰められたヨコシマは、またも俺の顔を見る。
俺はうなずく。別に隠していても、いつか分かることなんだ。言ってしまえ。

「チャオ実は、10時間しか生きられないのちゃお。そういう病気ちゃお」
「ええっ・・・」
真実を聞いたオニチャオは、言葉を失ってしまったようだった。

ヨコシマはあわてる。
「心配しないで!大丈夫ちゃお!チャオは病気なんか、恐れないちゃお!
 例え寿命が短くっても、チャオはその時間のうちに、一生分の幸せを詰め込むちゃお!」
そして、きゃははと笑っている。

俺もその様子を見ていて、なんだか、笑いが生まれている気がした。

園長先生が、俺の肩に手をかけてきた。
振り向く俺に、森野さんはにっこりと笑う。
「ヨコシマ君は、きっと転生しますよ。信じてますから」
「ですかね・・・」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号
ページ番号
3 / 6
この作品について
タイトル
十時間の命 -His life has only 10 hours-
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号