第三話「驚きと皮肉と哀願と」
「君に・・・マザーを破壊してもらいたい」
大統領は深々と頭を下げた。
隣では秘書らしき人が、情けないという感じで下を向き
頭を振っていた。
αー238は驚いた。
『驚いた』なんて言葉では言い表せないほど。
多分思考回路がおかしくなる一歩手前だったろう。
少しの間αー238は自分の記録している情報を整理していた。
自分はそんなに大統領と親しかったか。
そして何故大統領は自分に頭を下げているのか。
今までのデータ(マザーにデータを送っても、送信したオモチャオにはデータは残る。)を探りながら理由を考えていた。
それに自分にマザーを破壊しろなんて、到底無理だ。
そう思っていた。
「突然の申し出に混乱しているかも知れんが、
これは一刻を争うのだ。
早くマザーを破壊し、新しいものに変えなければ・・・」
この発言にウィリーシスは反論した。
「つまりマザーを取り替える、ということでしょうか?大統領閣下。
壊れたら捨てるなどというお考えでは、
あの憎き人間と同じになってしまいます」
「君は誰だね?」
ウィリーシスはこっちの質問にも答えずに、
今はどうでも良いことを聞いてくる大統領に心底腹が立った。
私たちを統べる人はこんな自分勝手な奴だったのか、と。
ウィリーシスは昔から察しが良かった。
この時も大統領が良いものではないと即座に見抜いた。
「私の名前はウィリーシス。
大統領閣下、貴方は二代目大統領でしょう?」
このウィリーシスの発言に、今度は秘書が怒った。
「そんなこと、住民なら誰でも知っておろう!」
「まあ待てキリス。
ウィリーシス君、確かに私は二代目だが何が言いたい?」
それを聞くとウィリーシスは細く笑んだ。
「一代だけの栄光でしたね。天国の一代目大統領閣下」
そう。大統領は選挙ではなく、
その家系で統一することになったのだ。
人間のときの選挙では毎年裏金やらなんやら出ていた。
我等チャオの時代ではそんなことはなくそう。
と、いう考えでこうなったのだ。
やはり秘書、キリスはとても怒っていた。
「な、何という事を・・・貴様ぁっ!この罪は重いぞっ!」
「人間の間違いを繰り返さないのではなかったのですか?
刑罰なんて少しの間自宅謹慎程度でしょう。
それでは私を悔い改めさせることは不可能でしょうねぇ」
ウィリーシスは皮肉たっぷりに言い放った。
これにはキリスも何も言えなかったが、
物凄く悔しそうな顔が印象に残った。
チャオの時代になり、刑罰も人間と同じ道を辿ってはいけないと
(刑の重さで反乱などが起きていた為)
かなり軽くなったのだ。
今では死刑なんてもってのほかで、
痛みを感じる刑罰など無いに等しい。
だが罪を犯す者も少ないので、これはこれで成り立っている。
そしてやっとαー238は整理を終えた。
「答えはNO、YES、どちらだね?」
つづく