6話 ~謎の石~ 前
次の日の朝、リディアはいつもより早くコロニー隊本部にいた。
他の人よりも少し遅めにくるリディアにとっては珍しい事だった。
「あれ?リディアさん今日は早いですね、何か用事でも?」
事務所にいたコロニー隊士官に驚かれたが、リディアはさらっと流すように前拾った「エメラルドのような石」をながめていた。
「ええ、ちょっと今日はやることがあるので・・・。あ、そうだ、少佐は?」
「少佐ならまだお見えになりませんよ。もう少ししたら来るでしょうけど」
「そうですか・・・」
そういうとリディアは石を片手に報告書の書き残しをかき始めた。字は汚いが読めなくもない。
数分後、ドルス少佐がやってきた。
「あ、少佐、おはようございます」
「おはよう、報告書は持ってきてくれたかね?」
「ええ、ここに。でもまだ少し未完成な所があるのでもう少し待ってください」
「では後で提出してくれても構わないよ。私はこれから例の作戦の会議があるので失礼する。あ、そうだ、リディア君?」
「あ、はい」
「今日は申し訳ないのだが、君達にこれと言った仕事はないんだ。だから、自由にとは言わんが好きにしてくれていい。ただし、迷惑はかけてくれるなよ」
「了解です」
リディアが報告書を書き終えた頃、ウェルナーがやってきた。
「おはようリディア、今日は早いね。いつもは僕より遅いくせに・・」
半笑いで言うウェルナーに、リディアは笑いながら返した。
「今日はちょっとやる事があってねー。それに今日はこれと言った仕事もないらしいから」
「じゃあ今日は何をするの?」
「今日は暇なんだ。だから・・・」
リディアがあの時のエメラルドのような石をウェルナーに突きつける。
「・・・これ?」
「そう、この石について徹底的に調べてやれば何か分かるかもしれない」
「たしかに。だけどどうやって調べるの?」
「石の方は研究室に持っていく。そして研究者にいろいろ調べてもらえばいくつかはわかるだろ。
それにどうせ何の研究知識も無い俺たちが研究者がやるような事調べても無意味だしな」
「僕たちはどうしよう」
「図書室に行って手当たり次第本を読むしかないだろう。何かの資料とか・・・」
「うへぇ、気が遠くなりそう・・・」
「でもそれしか方法はないんだ。じゃ、俺はこれから石を研究室に持っていくからウェルナーは図書室で石に関する研究資料とかをすぐ見られるように手配しておいてくれ」
リディアが喋り終わるか終わらない位のうちに、リディアは部屋を出て行ってしまった。
「全くこういう時だけ早いんだから・・」
ぼやきながらウェルナーは図書室へ向かった。
「・・・この石を?」
「ええ、そうです。調べてもらいたくて」
「調べるも何もこれはただのエメラルドじゃないかぁ・・・」
「ただのエメラルドじゃないですよ。きっと。とりあえず調べるだけ調べて欲しいのです!」
「何で君はそこに執着するのだね?」
「・・・『人形』の話は聞いてますか?」
「・・・、聞いているが」
「・・・これは俺たちが人形を倒した時に人形が落としたものなんです。だからひょっとしたら人形に関する何かがあるかも知れません」
「・・・そうかね、じゃあ調べてみようか。」
「あ、ありがとうございます!」
「ただ、この石を調べるのはいつ終わるかわからない。そもそも研究とか調べごとっていうのは一日二日で終わるものじゃないからな」
「それは承知です。ではこれから数日は図書室に居ると思いますので」
「わかった。終わったら図書室へ行こう」
なんとか石を研究してもらえることになり、リディアは図書室へと移動した。
「あ、おかえり」
「本や資料は?」
「そこに山積みになってるでしょ」
「げげ、これだけの量を調べるのか?」
「調べるって言ったのはリディアでしょッ」
「あー、やりますよ・・・、ところでこれだけの資料をよく揃えられたな」
「図書室の人にいろいろ細かい事言ったらこれだけ揃ったんだ。
だから地球の歴史とか鉱石の資料とか一見なにかありそうで何もなさそうな資料もあるよ」
「とりあえずそっちを読んでも損はなさそうだな。ところでこの本を全部読むには何日かかるやら・・」
「僕も気になって聞いたんだ。『一週間くらい一日中ずっと読んでれば大丈夫』だそうだよ」
「うわぁ、時間かかるなぁ・・・」
「やるしかないんでしょ?やろうよ」
「・・・だな」
二人はとりあえず読み始めた。読んでは別の資料を読み、読んでは別の資料を読み・・・そんな生活が一週間続いた。
「・・・どう?いい資料はあった?」
「うーん、なんか、こう・・・、知りたい事に届きそうで届かない事ばっかりだな。そっちこそ進展はあったのか?」
「特に重要な手がかりではないけれど、地球の歴史とそれに関する資料を読んでたらなかなか面白いことがいくつかあったよ」
「へぇ、どんな?」
ウェルナーは自分がなにやら書き込んでいた紙を持った。
どうやら書きとめてあるらしい。