5話 ~チャオならざる者~
歩くのに飽きたと思えるほど歩くと、道がなくなっていてかわりに広場のような場所に出た。
真ん中には噴水が置いてある。まるで公園みたいな景色が作られていた。
「ここはなんだろう。公園なのかなぁ・・・」
「いや、多分違うな。そもそもこんなところに公園なんか作る意味がないだろう?」
「じゃあなんなのかな」
「さぁな・・・。さっぱりわからない」
「山の頂上かな?」
「いや、それも違う。道はここで途切れているが整備されてない山道が向こうにあるぞ」
その広場に見えるものといえば、まだまだ続いていそうな整備されてない山道と噴水くらいしかなかった。
「なんか気味悪いな。何で山の中にこんなもの作る必要があるんだ?」
「・・・戻ろうか」
「・・・だな」
そういうと、二人はもと来た道を引き返した。
二人がふもとまで引き返した時、すでに薄暗くなりはじめていた。
山鳥の声に混じって草むらから虫の鳴き声が聞こえる。
「さて、ドルス少佐を呼ぼうか」
そういうとリディアは通信機に手をかけ、通信をはじめた。
「通信したぞ。あと十数分もすれば到着するそうだ。」
「場所はここでいいの?」
「通信機からの電波をヘリコプターが受信して場所がわかるシステムになってるらしいからいいってさ」
「じゃあ待とうか」
十数分後、ドルス少佐と共にコロニー隊仕官が数人迎えにきた。
「ご苦労さん。では戻ろうか」
「はい」
帰りのヘリコプターの中で、二人は見た事を話した。
山賊がなにやら会話していたこと、大柄なチャオのこと、『チャオならざる者』と交戦したこと。
ドルス少佐は何も言わずに二人の話を聞き、一言「そうか」と言い、話をはじめた。
「実は君達のほかにも偵察部隊をいくつか山の付近に送っている。その者達報告からの山賊達が集まっている場所は大体特定できそうだ。
早ければ・・そうだな、三日後にでも掃討作戦が実行できるかもしれない」
「はぁ、三日・・・」
「それで、君達の見た謎のチャオのことだが」
ドルス少佐の目が変わった。なにやら重大そうである。
「他の偵察部隊の一部からもそのような報告を受けている。中にはその者達に殺された隊員もいた。」
「っ!えぇ?」
「他にも、逮捕した山賊達から話を聞きだして調べてみた。だが、大半は詳しい事は何も聞いていないという。
せいぜいチャオならざる者の存在を教えられた事くらいらしい。
とすると、謎のチャオのことは向こうにとってはトップクラスの秘密なのだろうな。
彼等山賊は『謎のチャオ』の護衛任務をするためにいただけらしいからな。」
「・・・」
「これは山賊の討伐任務のほかにとても重大なことになりかねない。
最悪の場合・・・」
「・・・最悪の場合?」
「コロニー・・・、いや、大げさだが世界が破滅しかねない」
「え、ちょっと、そりゃまずいじゃないですか!」
「だから、我々もゆっくりできんのだ。はやめに作戦を練る必要がある。
とりあえず今考えているのは『山賊の掃討』のほかに『セプトコロニー隊から誰か彼等の一員となって詳しいことを調べてくる』事だな。
危険すぎる任務だが・・・。」
「その任務、僕たちにやらせてもらえませんか?」
「・・・いいや、駄目だ」
「何故です?僕たちだってコロニー隊の特殊部隊なんですよ?」
「・・・言っただろう、『危険すぎる』と。それにな・・・」
「それに?」
「この件は前から調査していたのだが、その時にもやはり『チャオならざる者』のことは報告にあった。
そこで気になって詳しいことを部下数人に調べさせてみたのだが・・・」
ドルス少佐は少し深呼吸してからこう言った。
「誰も帰ってこなかった。奴らは絶対に関係者以外が『チャオならざる者』について知る事を許さない」
「・・・」
「だからこそ、今度はやつらの懐に飛び込んで調べてもらおうってわけだ。
今までは外部から情報収集をする手を使っていたからな。外からが駄目なら中からってわけさ。」
そんな話をしているうちに、ヘリコプターはコロニー隊の本部へ戻った。もう外は暗い。
本部に戻ってから時計を見ると、18時25分をさしていた。
「さ、君達はもう帰りなさい。それから報告書に今日の成果を書いて明日持ってきてくれ。
君達の調べたデータから作戦を練るのだからしっかり書いてくれ」
「わかりました」
「では、私はこれで失礼するよ」
帰り道を歩き、ウェルナーとリディアが帰り道でわかれるところまできた。
「じゃ、僕の家はこっちだから・・・」
「待て、ウェルナー」
「? なんだい?」
「・・・俺、嫌な予感がする」
「えぇ?」
「このコロニーでは絶対に何かが起きる。とてつもない事件が・・・」
「ヘンな事言わないでよ!」
「・・・そんな予感がすることだけはいっておく。じゃあ、明日」
リディアはいつになく真剣な表情をしていた。