I never have "notihng" 1

日光がさんさんと照りつける。
人工太陽を開発した人間は、
森も海も、地球と同じように手に入れた。
地球とただ違うのは、
子供の絵本の挿絵の空が黒いことだった。

約100年前の30××年、人はチャオの高度な文明進化を止めることが出来ず、
結局人の中でも先進国だけが月に移り住む結果となった。
そして、月の周りにはチャオの警備艇が飛び交い、
人間達は月に軟禁されている状態になった。

しかし、その中でもとある若者はこのような思いを吐いていた。

―俺たちは・・・本当のことが知りたいんだ!

こうして誕生した「SRFBD」で、
物語が、始まる。



『I never have "notihng"』



某名 郁(ぼうな いく)は小ぎれいな家で独りで住んでいた。
二十歳。独身・・・ではなかった。
いや、結婚はしていないのだが、独身と言えなかった。

そういえるときは、郁の待つ和田 須磨(わだ すま)の死が確定するときだから。

郁はピンク色の写真立てを見つめて、それを手に取り抱いた。
須磨が郁に送ったものだった。
郁はこれを買ってもらったときのことを思い出していた。

―そろそろ、おまえの誕生日だよな。何が欲しい?
―あたしね、ピンク色の写真立てが欲しい!
 須磨とツーショットで取った、あの写真を飾りたいの。
―はは、最近頼むものが安くなっていっているな。
 ゴメン、収入低くてさ。
―いいんだよ。あたしは須磨からもらったものなら何でも良いんだから!

楽しそうな会話が、聞こえる。
愛しい人の声が、聞こえる。
私の確かな鼓動が、聞こえる。

そして、今はどこからも・・・聞こえない。
郁は写真立てをぎゅっと抱いた。
ピンク色の写真立てが笑うとは思ってはいない。
でも、郁は笑わないそれに涙を一粒こぼした。

写真立てをもらった一ヶ月後、彼は自ら「SRFBD」に入った。
それはいわゆる「地球スパイ」。
チャオの文明の弱点を解いて、もう一度人間が地球を支配出来るようにする。
無謀かつ、ある意味では「夢」のある集団だった。

彼はそこからもう2年間帰ってこない。
まぁ、彼の両親兄弟はもう死んでしまったらしいから、
確かに、そこに行くことは容易かったのかもしれない。

だが、それで地球に派遣されて帰ってきた人間は一割しかいなかった。
つまり、九割は「死」を意味しているのだ。

―須磨・・・。

郁は信じていた。
そして、どこかであきらめの音を上げる自分を責め立てた。

黒い空はどこまでも無限に広がっているだけだった。



第5SRFBD隊、本部。

月の世界は二つに分けられる。
一つは「住世界」、もう一つは「戦世界」だ。
住世界は月の地下に作られている。
戦世界は月の表面の世界のことをさしている。
「SRFBD」はその「戦世界」の一端に建物を構えていた。

私服姿の炉都奴 作哉(ろつど さくや)は歯を磨きながら、廊下を歩いていた。
28歳。妻子を持っていた。
彼は総計25回、地球スパイを見事に敢行した、いわば「神」であった。

―よぉ、作哉。明日潜入だぞ。どうしてそんなに余裕なんだ。
―良いじゃねぇか、冬樹。それが生き残る秘訣だ。
 おまえかって、生存率10%のこの仕事を10回も成功させているんだ。
 ナンバー1、2なんだぜ。俺たち。安心しろよ。
―ふう・・・まぁ、そう言うのが良いのかもしれないな。
そんなことより、新入りのあいつをどうするかだな。

野田 冬樹(のだ ふゆき)はジャージ姿で髪の毛をかきあげながら、
須磨の方を指さした。彼は22歳で須磨と同い年であった。

―よぉ、須磨。調子は良いか?
―あぁ、炉都奴さん・・・。調子は良いですが、・・・。
―調子が良いなら早く寝ろ。
 明日からはスパイとしてよりも地質調査だから、
 生存率は高いものだと思うが・・・。
―・・・はい。

須磨はしぶしぶ部屋に戻った。
そのベッドの上には郁の写真があった。

―郁・・・。

須磨はベットにどすんと寝ころんだ。
たまに、トレーニング中に住世界に戻りたいとも思った。
しかし、彼の思いは固まっていた。

―本当のことが・・・知りたい。

今日くらいは良い夢を見たいなと思いながら、彼は眠りについた。
明日からは生死が背中合わせの「仕事」が開始されることになるのだから。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第259号
ページ番号
1 / 4
この作品について
タイトル
I never have "notihng"
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第259号