二階堂刹那とボクとワタシの殲滅作戦
どうやら正体不明の敵(アンノウン)がその勢力を拡大しつつある、という情報を手に入れたのは、本当に偶然だった。
突如として繰り広げられる銃撃戦。やけに声の大きい男と、いやに図体の大きい男。彼らが現れてから戦況は一気に変わった。
少年は腰のホルダーから青と黒で装飾された細長の拳銃を二丁取り出して、向かい来る敵に――的(まと)にとも言う――備える。
数分後。
片方の圧倒的勝利で銃撃戦は幕を閉じた。
やけに声の大きい男が敵の銃弾をその身に受けながら(キャプチャー能力だろうか?)猛進し続け、ついには手からビームのようなものを放ったと思った途端、男の敵は次々と倒れ伏せて行ったのだ。
ふむ、と少年は男と視線を交わす。
紛れもない戦争行為――見逃すべきか、排除すべきか。しかし彼の恐るべき能力を前に、エネルギー銃が通用するとは限らない。いやに図体の大きい男の本領が発揮されていない様子もある。
だとすれば。
少年は銃口を男へ向ける。すると男、それに答えるように口を開く。
「君も我が鳳凰チャオ躍進委員会に参加してみないかね?」
SCA特務隊隊長、仲神春樹は男を放置することに決めた。
「会長、今の勧誘は突然すぎるのでは」
「なに、フラグは事前に立てておる。おや? どこに行こうというのじゃ? 我々鳳凰チャオ躍進委員会は――」
――翌日――
仲神春樹は怪しげなピンバッヂを付けた女を尾行していた。先程から周囲を嫌というほど警戒している。やや服の裾が浮いている。それの意味するところは、彼女は拳銃を所持している、ということだ。
米国ならまだしも、ここでは拳銃の所持が許されていない(はずである)。仲神春樹は電信柱の陰に隠れ、彼女の一挙一動を注視した。
唐突に彼女が曲がる。気付かれただろうか? いや、気付かれるはずはない。いかにも彼女は素人――
「そこの君。チャオは好きか?」
後頭部にひんやりとしたものが突き付けられる。とっさに春樹はホルダーから拳銃を取り、発砲。彼女は跳躍し、空中で一回転すると(体操選手だろうか?)華麗に着地した。
もう一丁のエネルギー銃を構えると同時、彼女も二丁の拳銃を構える。なるほど、お互い得意分野は同じという訳だ。
「敵の質問に答える義務はない」
発砲。その青い光線に驚いた様子もなく、彼女は跳躍しながら空中を駆ける。悪鬼の類だろうか。もはや人間ではない。
くるくると拳銃を回転させた彼女は、一気に春樹との距離を詰め、発砲した。突風。着弾寸前、春樹はホバーシューズを全力稼働させてそれを回避。
向かい来る銃弾を撃ち落とし、春樹は空中を飛びながら狙い撃つ。対して女、シノビのような速さで地を駆け、音もなく春樹との距離を詰めた。
「そうだ。たとえ人になんと言われようとそう思う気持ちが大切だ」
意味がわからない。
銃弾を避け、春樹は着地する。振り向き様に発砲。女は回避する。
「チャオが好きな連中が集まるところがある。君も来ないか?」
「……それは、まさか鳳凰チャオ躍進委員会というところか?」
「何だ、知っていたのか。ならば話は早い。私は一ノ瀬美佳だ。よろし――」
仲神春樹はそれ以降の彼女の言葉を一切無視した。
――翌々日――
その日、仲神春樹はコードCHAOと共に街中を歩いていただけだった。任務とは無関係にも関わらず、春樹の真横を銃弾がかすめる。
「おや、また会ったのう、少年。ところでそれはチャオかね?」
「いえ、違います」
身の危険を感じた仲神春樹は、やけに声の大きい男といやに図体の大きい男を見ながら答えた。
「ふむ。今日は良い天気ではないか……ところでそれはチャオだね?」
「いいえ、違います」
答えた。
再び銃弾が迫る。春樹の目前に迫ったそれは消滅した、ように見えた。青いコードCHAOが春樹の目の前に立ち、男と向き合う。
その長きに渡る沈黙、春樹は彼の目的を考えた。鳳凰チャオ躍進委員会。会長、と呼ばれる男。チャオを研究し鳳凰のごとしチャオを製造する委員会……躍進とはどういうことなのだろうか。
「会長、ここは買収すべきでは。彼の服装を見て下さい。先日と同じです。つまり……」
「成程。ではこれでどうかね?」
男は指を五本立てる。
「ちなみにゼロは八個じゃ」
五億。
「却下です」
「ゼロを九個」
「却下です」
男はにやにやと笑みを浮かべる。拳銃を構えたまま交渉とは、素人なのだろうか。いや違う、と春樹は思った。
自らの絶対的な勝利を確信しているのだ。
「ワシが折角温和に交渉を進めているというに……少年、容赦はせぬぞ」
男が消えた。春樹はホバーシューズを稼働させ、空中を舞う。超能力を使う男が二人。勝ち目は薄い。通常の戦闘ならば。
しかしこちらにはキャプチャー能力がある。春樹は何をするでもなく、空中を飛んだままじっと立っていた。
日が暮れた。
コードCHAO先生のQ&A!
大●仁恵「会長はどこに行ったの?」
CHAO「チャオを傷つけるのは彼の信念に反した為、彼は春樹に対する嫌がらせ行為をするだけにとどめた」
大倉●恵「悪趣味ね……」
刹那「ふっ……俺の出るまでもなかったか」
一ノ瀬「いや、出番なかっただけっす。お疲れ様っす」