02 -Noodles Master-
「はあ、マッタク、えらい目にあったちゃお」
「まあまあ、そう言わずに」
テーブルに腰掛けたエミーチャオに、ラーメンを差し出すヒーローチャオ。
ヒーローチャオの名はクレープ、このラーメン屋の、唯一のウエイトレスっぽい存在です。
エミーチャオは、受け取ったラーメンのどんぶりを前に、大きく溜息をはき出しました。
「マンガじゃあるまいし、いきなり町中であんな得体の知れない奴に襲われたら、誰だってびびるちゃおよお」
そう言いつつ、エミーチャオはラーメンに箸を延ばし、口に入れたところ、しかと顔をしかめます。
「えあ、な・・・、このラーメンは、クレープ?」
「ああ、それね。わたしが納豆入れたんだけど、どう?なかなかいけるでしょ」
笑顔で話すクレープ。
「わたしは料理はへたくそだけど、納豆ぐらいなら、出来るんだ!!」
「納豆って、混ぜるだけちゃおね・・・」
「技術じゃ負けるから、アイデアとセンスで勝負する訳よ」
そう言って、にっこり自分の頭を指さすクレープ。
エミーチャオは苦笑すると、どんぶりに手をかけ、ラーメンを口に含めてから
「確かに、意外にも食べれるみたいちゃおけど。何か、ほかにも違わない?」
と、感想を漏らします。
「実はキバさんが、なんだか新しく麺を開発しているらしくて、その失敗作だって」
キバさんとは、このラーメン屋で、料理を担当しているチャオの名前です。
クレープの台詞に、思わずラーメンを吹き出しそうになるエミーチャオ。
エミーチャオはもう一度麺を口に運び
「何も言わずに勝手に新作料理を出さないで欲しいちゃおねぇ」
と顔を上げたが時、そこに既にクレープの姿はありませんでした。
「はーい、コーンバターミソカツラーメンですね」
「うおぃっ」
いつの間にか別客の注文を取っていたクレープに、エミーチャオはただただ、肩をすくめるばかりでした。
食事を終えたエミーチャオは、ラーメン屋の裏手、調理場へ。
と、言うのも、キバさんが作っているという新たな麺が、ちょっと気になったためでした。
エミーチャオがここに入れるのは、クレープの紹介のおかげで、もちろん一般人は立ち入り禁止です。
もっとも、クレープに頼むと、誰でもここを紹介してもらえたりしますが・・・
「こんにちは~。また来たちゃおよー、キバさん」
この店の全てのラーメンの調理を受け持つのは、キバさんと呼ばれる、とあるオニチャオ。
チャオが絶滅危惧種として国際的に保護される中、彼は転生前からラーメン一筋で、それが高じて、こんなラーメン屋を始めてしまいました。
しかし彼のそれが、人並みの知能を持った生物としての、チャオの権利獲得の草分けとなった面もあるのです。
無言で麺を茹で続けるキバさんの隣に、エミーチャオはもう一つの、ザルに入った麺を見つけました。
「あれ、この麺が、さっきあたしが食べたそれちゃおか?」
「ああ」
キバさんは麺を茹でるのに集中し続けながらも、答えてくれます。
「チャオの口に合わせるために、繊維質の物を目指して開発しているんだが、中々、うまくいかん。それも、昨日の失敗作だ」
「へえ~、さすが、頑張ってるちゃおねえ」
深くうなずくエミーチャオ。
エミーチャオは、調理場の整然と並んだ器具類を見回します。
いつもはない、木の実やフルーツ、それに関する書籍も、いくつか並んでいます。
繊維質。確かに、小麦粉から作るのとは、わけが違うことが、キバさんの口調から容易に想像できました。
「それじゃ、またね」
エミーチャオは、そうキバさんに声をかけて、店をあとにしました。
店を出たエミーチャオは、のんびりと、街の散策も兼ねて帰り始めます。
たくさんの車が通行する大通りを通りつつ。
と、そのとき!!
何者かが、エミーチャオの体を押し倒しました!
エミーチャオと何者かは、道の脇へ倒れ、たまたまそこにあった、暗い路地へと転がり込みます。
「なっ、オマエ!!」
エミーチャオは、相手に上を取られてしまいます。
がむしゃらにもがきますが、抜け出すことが出来ません。
みたところ、どうやら相手もチャオです。色は黒!
しかし、エミーチャオの意識もそこまででした。
頭部を手で強く押さえられ、覚えているのは、不思議なことば。
Chaos Control