第8話 こうして旅は始まった
「うおおおお!!」
敵国の兵士チャオたちが王やソニクサのいる謁見の間まで押し寄せてきた。
総数は5万もあるという軍勢、そのうちの数千が王を目掛けて向かってきている。
王チャオは覚悟を決めた声で言った。
「ソニクサ、おぬしはこの城から脱出し、世界を救え。敵は私が引き留めよう」
その言葉に一番大きく反応したのは大臣であった。
「そ、そんな! 王もお逃げください!」
「そうはいかん。この世界を救えるのは我々ではなく、かの者、勇者ソニクサに違いない。そうであれば我が命ここで失っても惜しくないものよ。大臣よ、そなたはソニクサとアイを船まで送り届けよ」
「は……! し、しかし」
「私の最後の命令だ。聞いてくれるな?」
「承知……いたしました……!!」
大臣は深くこうべを垂れた。
だがその後の動きは速かった。
すぐさま隠し通路へとソニクサたちを案内する。
遅れて敵国の兵士たちが謁見の間に侵攻してきた。
「うおお! 王を討ち取れーー!!」
大臣が食い下がることなく折れてくれたおかげで勇者たちを逃がす時間は作れそうだ、と王は笑みを浮かべる。
「なにを笑っていやがる!」
「偉大なるクラウンサンダー!」
王チャオが被っていた王冠から雷が放たれる。
恐ろしい威力で、一気に数十人の敵兵チャオを倒してしまう。
「こ、こいつ強いぞ!」
「はっはっは、そのような驚き方をするなど、討ち取らんとする相手のリサーチが足りていないのではないかね?」
大臣の先導でソニクサたちは城の外を目指していた。
だが隠された逃走経路があるのは敵国も予想済みである。
やたら大軍で攻めてきた兵士たちはしらみ潰しに逃走経路を絶つための人手でもあった。
隠し通路の存在も見つかってしまい、ソニクサたちは敵兵と対面した。
「なんだぁ……? 王じゃないやつが逃げようとしているぞ。どういうこった?」
「さすがにそう簡単には逃がしてくれないってか。なら、ハートフレアだ!!」
ソニクサは必殺技を放とうとした。
しかしなにも起こらない。
「わっつ? おいっ、いくぞドラゴン、必殺ハートフレア!!」
『それはできない』
「なんでっ!?」
『今はその時ではない』
「ほわい!? どういうことだよ、さっきと大して状況変わらねえだろ!」
とにかくソニクサの必殺技は不発に終わった。
騎士団長のアイちゃんも先ほどの戦いで負傷しており万全ではない。
「アイスランス!」
と一応の抵抗を試みるも、勢いの弱い魔法は簡単に避けられてしまった。
「お前らはここで終わりだ!」
敵兵はリコーダーを取り出して吹いた。
すると狭い隠し通路で挟み撃ちにするように増援が来た。
戦う力もなく、ソニクサは本当にここで終わりだと諦めようとした。
その時、隠し通路の壁が破壊されて一人のチャオが入ってきた。
「大丈夫ですか、勇者ソニクサ!」
それはあの夜に祈っていた姫であった。
「ここは私に任せてください。そしてあなたたちは今私が空けた穴から逃げて!」
「さんきゅー! 助かったぜ!」
「あなたは私の祈りに応じてこの世界に降り立ってくださいました。ですからあなたの旅路を守るのが私の役目と存じます。さあ、早く行って!」
ソニクサたちは逃げる。
そして姫チャオはその身を盾に穴を塞ぐ。
「お姫さん、悪いがそこを通してもらおう」
「邪魔をするとろくなことにはならないぜ?」
「私をただのか弱い姫だと思ったらそれは間違いです!」
姫の体が魔法の力によってつやつやチャオのように淡く光り出した。
「魅惑のプリンセスキッス!!」
キッス……キッス……キッス……(←強めのエコー)
「ぐわあああ! 骨抜きにされるうう!!」
敵兵たちは魅了されて身動きが取れなくなった。
中には腰砕けになって完全に動きを封じられている者までいた。
「私の魔法の力がいつまで持つか……、でも彼らが逃げるまでは持ちこたえてみせる!」
隠し通路から脱け出し、さらに城の外に出ることに成功した。
海につながる池では船が出発の準備を整えて停まっていた。
「あの船でこの国から脱出し、南の大陸へと向かうのです!」
と大臣は言った。
しかし城内から出てきた追っ手の存在があった。
追う敵兵の方が足は速く、船までたどり着けそうにない。
「どうやら道案内もここまでのようですな。この大臣めが最後の仕事をいたしましょう」
大臣は立ち止まると気球のように急速に膨れ上がった。
「巻き起こしましょう華麗なる粉塵! 見せましょう栄誉ある退陣! 大臣ダイナミック!!」
そして大臣は爆発した。
爆発に巻き込まれた敵兵は負傷する。
それよりも爆風によってソニクサとアイちゃんは船の上まで飛ばされた。
二人の搭乗が確認されるやいなや船乗りのチャオたちは船を動かした。
陸から離れ、海へと向かっていく。
かろうじて逃げ切ることはできたが、城の中では惨事が起こっているだろう。
この日、中央大陸で一つの国が滅び、勇者の旅は始まった。
「お父様とお姉さまが愛したこの国を、いつか取り戻してみせます。そのためにも私は勇者と共に戦い、そして誰よりも強くなってみせます」
遠のく城にアイちゃんは決意を語った。
つづく!!
これから先、どのような冒険が二人を待っているのか!?!?
期待していてください!
感想もよろしく!