第9話 上陸
船旅は決して愉快なものではなかった。
敗走の暗さもある。
故郷を失ったアイちゃんの心には大きな影が落ちただろう。
一方でソニクサは彼女とは異なる暗闇に直面していた。
ソニクサにとってみれば敗北の実感はない。
たまたま降り立った国が滅びただけのことで、深い当事者ではない。
ではソニクサを思い悩ませるものがなにかと言えば、それは魔法が使えないことであった。
城での戦いのとおり、この世界のチャオは魔法を使って戦いをする。
アイちゃんは氷の槍を放ち、姫は魅了の魔法を使い、大臣は自爆の魔法で見事に役目を果たした。
ソニクサだってドラゴンの力を借りて必殺技を放った。
だが今となってはいくら呼びかけようともドラゴンの声は返ってこない。
必殺技はおろか、この世界の兵士戦士の用いる魔法は全く習得できなかった。
船上で一週間も過ごして練習したにもかかわらず、である。
ソニクサには子供が使うようなちゃちな魔法しか扱えず、これにはアイちゃんも驚いていた。
勇者なのに魔法が使えないなんて。
そんな顔をされてしまったのでソニクサは焦っている。
都合の悪いことにソニクサに与えられた武器は剣で、これは水っぽいチャオにはあまり通用しない。
勇者だ英雄だともてはやされて庇護されここに至るのに、その勇者に戦う力がないとは話にならない。
焦っても落ち着いても船は一定の速度で南下する。
そして南の大陸に到着し、ソニクサたちは船を降りた。
「上陸したはいいけど、これからどこに向かえばいいんだ?」
とソニクサはアイちゃんに聞いた。
ハーツという名のチャオが仲間になるかもしれないという手掛かりだけで南の大陸に来てしまった。
ソニクサにはこの世界の地理は全くわからないのでアイちゃんが頼りだ。
「このまま海沿いに歩いて港町に行くよ。そこから東南に進むと港町を治めている王様の城があるんだ。まずはそこが目的地」
実は目的地とはずれた地点に着いてしまったのだとアイちゃんは言った。
本来は港町に着く予定だったのだが、急いだ出発だったために船員が足りず航海に支障があったのだそうだ。
その船に乗っていたというのに初耳で、ソニクサはちょっと落ち込んだ。
信頼されていないと思ったのだ。
本当はソニクサを不安にさせまいとするアイちゃんや船員たちの気づかいだったのだが。
「城か~~。また偉い人と話すってなると疲れそうだな」
ソニクサはそっくりさん芸人だった頃、偉い人と話す機会なんて全然なかった。
事務所の社長を除けば、テレビ局のディレクターが頂点だった。
それが次から次へと王に会う身分だ。
一週間の船旅を経て、気が重くなってしまった。
「仕方ないよ。勇者の行動は下手すると国の情勢を大きく揺るがす影響力があるもの。だからこそ偉い人と話して、事が穏便かつスムーズに運ぶように話をつけないとね」
「なるほど。振る舞い方を間違えると国を敵にやり合わないといけなくなるんだな」
「そういうこと」
話しながら歩く二人であったが、真正面から不穏な雰囲気を持ったチャオが四人歩いてきた。
四人のチャオにも二人のことが見えているはずだが道を譲ろうという動きはない。
むしろ塞ぐ心づもりだ。
四人で壁を作っている。
ソニクサとアイちゃんが道の脇に寄っても、その動きに合わせて脇に寄る。
どう対応したものかと結論が出る前に、
「あんたたち、さっき船から降りてきたよな?」
と四人組のうちの一人が聞いてきた。
質問の形で話しかけてきたが彼らは二人の答えを待たなかった。
「船に乗って移動できるくらいには金持ちってことだよな~~?」
「そのお金、僕たちにくれないかなっ? 大人しくお金を出せば怪我しなくて済むと思うよっ」
「逆らうのなら、命の保証はしない」
「というわけだから大人しく従ってくれるかな?」
アイちゃんは槍を構えた。
「お断りします」
つづく!!!
4人も敵が出てきました!
ソニクサは戦えないからアイちゃん1人で相手をしなくちゃいけない!?
これって大丈夫なの~~~!?
感想待ってます!!