4話
「ねえ」
しばらくチャオの世話をしていると、彼女は真剣な面持ちで話しかけてきた。
「やっぱり、今回は赤い悪夢が来たの?」
赤い悪夢。そう呼ばれるそいつはチャオだ。だが、チャオ離れどころか人知を越した動きをして、GUNが戦闘で苦戦する原因になっている。
そいつはダークカオスという非常に珍しい進化を遂げた赤いチャオで、そのチャオ離れした動きはカオスエメラルドをキャプチャーしたことによるものだとGUNは見ている。
無限の力を持つ石と言われるカオスエメラルドをキャプチャーしている。そう聞いただけで相手がチャオでも敵いそうにない。
赤い悪夢という呼び名はお偉いさんが付けたものじゃない。
お偉いさんが付けた正式な呼び名は別にあるのだけれど、その呼び名よりもGUNの兵士が勝手に付けた赤い悪夢という呼び名の方がよく使われている。
今回の戦闘で現れたのは、たぶんその赤い悪夢だ。
「あ、ごめん。思い出したくないよね?あんなこと…」
彼女は慌てて謝る。
「あいつもチャオだから、気になる?」
「うん…」
彼女は俯きながら言う。
「この子達と同じチャオなのに、なんであんなことをするんだろう」
「んー、何か理由がある、とか」
「例えば?」
そう返されて、俺は困る。理由なんて考えていなかったし。
「えーと、例えば。チャオは~、税金が高すぎるために一揆をだな…」
「あはは、何それ~」
彼女は笑う。
たぶん、向こう側にも何か理由があるのだろう。俺にはそれが何なのか知る術はないけれど。
せめて、彼女みたいにチャオが好きな人が笑顔を失ってしまうような理由じゃなければいいなと思った。
「あ、そうだ」
「ん?どしたの?」
やがて、俺達は部屋に戻るためにガーデンを出て通路を歩く。
その最中、思い出した。大事な用事があったことを。
「訓練っていつあるんだ?」
「えっと、明日もあるよ」
「何時から?」
「んーと、えーと…。…覚えてないや。部屋どこか教えてくれる?時間になったら迎えに行くからー」
「え、いいの?」
とっさにそんな質問が口から出てくる。その質問に彼女は勿論、と答えた。
その直後に彼女が突然「あ!」と声を上げた。
「ど、どうした?」
「種!植えるの忘れてたー!!」
「あ」
「急いで!朝までかかっちゃう!!」
彼女がガーデンへ向かって方向を変え、走り出す。
それにつられて俺も走り出した。
「朝までかかるって・・・どんだけの量植える気だよ!紙袋の中にはそれほどなかったはずだぞ!」
「えっと、前もって運んであった分も合わせて百個くらい」
「ガーデンを森にでもする気かよ!」
部屋に戻ると、どっと疲れがこみ上げてきた。
結局、種は10個ほどしか植えなかった。残りはそれらが枯れたらまた植えることにしたのだ。
流石にトラックの中で寝ただけではあの疲れはとれないようだ。むしろ、ここまでしっかり意識を保てただけでもよくやったと思う。
俺はベッドに寝転がるとすぐに眠ってしまった。