4話
「こんにちはー」
「あ、ああ…。どうも」
そうやって俺が地図を見ていたら、その歩いてきた人が話しかけてきた。
その人は、トラックで一緒だった女の子だった。どっかへ行く途中でここを通りかかったようである。
彼女は私服に着替えていて、買い物に行ったのか、木の実をたくさん入れた紙袋を抱えていた。
「治療、してもらったんだ」
「結構荒々しかった。言葉遣いが」
「あー、あの人いつもあんな感じだよ。腕はいいんだけどー…」
と、彼女は苦笑いする。
「君は何をしに?」
「ん、チャオガーデンに行くの。一緒にどう?」
「あー…うん。行くよ」
「ほんとー?よかったー」
彼女は笑顔になる。とても笑顔が似合う子だと思う。俺の目にはその笑顔が光り輝いているように見えた。
俺は嬉しそうに歩く彼女の後ろについていく。
チャオガーデンは医療室からは遠く、どちらかというと兵士の部屋のあるエリアに近いらしい。
「その紙袋に入ってるのは全部チャオの?」
「うん。ほとんど木の実なんだけどね」
と、言いながら彼女は中から何かを出そうと手を紙袋の中に入れる。
「じゃーんっ」
彼女が取り出した物、それは木の実の種だった。
「初めて買ってみたんだけどねー」
「それを植えに?」
「うん。たくさん買ったから、植えるの手伝ってね」
「あ、だからさっきよかったーって」
「うん。わかっちゃった?」
そう言って彼女はこちらを向いて微笑む。
ああ俺はひょっとして騙されたのか。でも笑顔が可愛いから許す!もう俺ってば単純!
彼女はあるドアの前で止まる。
ドアは自動的に開く。そして、彼女はその部屋の中へと入る。
俺もその後に続いてそこに入る。
「・・・すげえ」
「すごいでしょー」
多くの兵士が入れるようにしてあるのか、チャオガーデンの広さは並のガーデンとは比べ物にならない広さだった。
そこはまるで今までいた所とは全く違う場所にいるのかと思うほど緑一面であった。
遠くの方に見えるチャオが相当小さく見える。
チャオの数もガーデンの広さに比例するかのように多く、十六匹くらいはいそうである。
だが、今ここにいる兵士は俺を含めて二人。おそらくGUNはここまで来る人が少ないとは思ってもいなかったであろう。
俺達に気付いたチャオがわらわらこっちへと走ってくる。
彼女はいつもチャオガーデンに来ていたようで、すっかりチャオ達になつかれているようだ。
チャオガーデンに入るなりチャオ達は彼女に駆け寄って、彼女は周りに足場が無い状況に陥った。
「た、助けてー!」
足場を確保しようと俺がチャオを持ち上げても、チャオはその体を最大限に動かし俺の手からすり抜ける。相当彼女になついているみたいだ。
「無理。がんばれ」
「え、えー!」
彼女はゆっくりと右足を上げる。そして、左足でジャンプするようにしてなるべく遠くへ着地するように移動した。
ぺむり。
右足はチャオを踏みつけ、踏まれたチャオは遠くの方へと飛んでいく。
ぽてん、と地に落ちてしばらくしてそのチャオは泣き出す。
「ああああ、どうしようー!」
そう言いながらも彼女はすぐにそのチャオに駆け寄って頭をなでている。
俺も近くにいるチャオをなでてみる。
しばらくなでてると、頭の上に浮いている球をハート型にした。結構素直だ。
「他の子達に餌あげといてー。袋の中に食べ物入ってるからー」
チャオをなでながら彼女は言う。俺はその袋の中を覗く。中には色々な形をした実がある。
試しに四角い実を近くにいたチャオに食べさせてみる。
ぽっ。
頭の上の球体がハートのような形になる。
喜んで食べるかと思いきや、木の実をかじった瞬間頭の上の球を渦巻き状にして、木の実を放り投げた。
「な…」
正直、殴り飛ばしてやろうかと思った。
俺だって嫌いな野菜を食わされた記憶があるぞ!そのくらい我慢しなさい!
「その子、四角い実嫌いだからー」
踏みつけてしまったチャオの事はもういいのだろうか。彼女が笑ってそう言いながら袋から丸い実を取り出す。
さっきのチャオは走って彼女の方へ行き、さっきの様子からは信じられないほどの食べっぷりを見せつけた。
「好き嫌いなんてよくわかるなあ」
「みんなの好み覚えたからねー」
へへん、と彼女は得意げな顔をする。たくさんいるチャオの好みを覚えるなんてことをするほど頑張っているからこそ、チャオ達も彼女にとてもなついているのだろう。
俺は彼女がチャオに餌をやるところを見て、好きな木の実を覚えようとしてみた。