3話
医療室は部屋から割と遠い位置にあり、さっきいた駐車場の近くまで行かなければならなかった。
怪我をするのは、部屋にいる時よりも戦闘中の方が多いから当然と言えば当然なのかもしれない。
駐車場のようにいくつもあればいいのにな、と思ったのだがそれとこれとはどうやら違うようで、医療室は一つしかなかった。
「運がいいな。ほとんど問題は無い。すぐ治る」
白衣を着て、白い顎髭を生やした顔にしわばかりの老人が俺に言う。
医務室に入ってすぐ、もしかしたらここで殺されるかもないなという笑えないジョークが頭の中に浮かんだ。
老人だ。もし、ボケていたらしなくてもいいのに手術するとか言い出すかもしれない。そして、震える手で変な所を切られるかもしれない。
だが、そんなどっかの物語のギャグシーンのような展開には当然ながらならなかった。
治療を初めてすぐに見せつけてきた素人目でもわかるその手つきの良さは、老人の変装をしているだけで本当は若いやつなんじゃないかと思うほどであった。
「にしても年なのによく医師やってますね」
「ふん。老人で悪かったな。まあ、お前らより早く死ぬつもりはない」
「確かに、俺達の方が早く死にそうですね。戦死だけど」
と、笑いながら言ったら、
「そういうこった。全く、死んできてもらった方が仕事が減って楽なんだがな」
なんてとんでもないことを真顔で言ってきた。
「酷い事言いますね」
「まあな」
そうこう話しているうちに治療は終わった。
治療にかかった時間は一分あるかないか。早い、安い、うまい。うん、食べ物なら尚更よかったのだが。
不満を言う所と言えば、治療の仕方と言葉が荒々しい所ぐらいだろう。
俺は医務室から出る前に訓練がいつやっているか、と聞いた。だが――
「知らん。とっとと出てけこの死に損ないが」
と返された。おまけに背中を押され無理矢理医務室から出される。
抵抗しようと思ったが、する間もなく、そのまま押し出されてしまった。
本当に老人かこいつは。
そのうち実は俺お前よりも若いんだとか言ってきて、顔の皮をべりべり剥いで真の姿を見せてくるかもしれない。
もしかしたら現役の兵士かもしれない。それも大佐とかすごく偉い階級だったりするかもしれない。
いや、そんなわけないか。
そんなことを考えているうちに、誰かがこちらの方へ歩いてくる。
このままぼーっと立っていたら、何しているのだろうと不思議に思われてしまうかもしれない。
それはそれで考えすぎかもしれないが、俺はとりあえず持っていた地図を見ることに集中した。