2話
俺は民間人が逃げた方向へと歩き出す。そこに行けば、たぶん生きていけるだろう。
ただ何も考えず歩くだけになったところで、左肩が痛み出す。
左肩を見ると、斬られた部分だけきれいに服が破れ、その下に傷ができている状態であることがわかった。
その周辺は多少赤くなっていて、そこだけが唯一俺の血で赤くなっている場所だった。
あまり凄い痛みではないということから考えれば傷は浅いのだろう。
たぶん、あの時あいつが俺を庇っていなかったら左肩を負傷したどころでは済まなかった事だろう。
彼と同じ状況になっていて、首が吹っ飛んでいたことだろう。
どこを歩いても、同じようにたくさんの人間が倒れている。
建物も全て壊されていて、どこを歩いても同じ場所に見える。
一定の方向にずっと歩いているから、迷うことはないはずだ。しかし、そんな景色だから時々迷っているのではないかと不安になる。
そうこう考えているうちに、GUNのトラックが見えた。ああ、助かった。
トラックの近くに立っていた男の人は俺を見ると目を丸くした。
当然だろう。民間人ならともかく、GUNの一員で戦っていたなら生きていることは奇跡に近い。
まあ、俺の場合は途中から戦っていなかったから例外になるわけだが。
どっちにしろ、まだ生存者がいるなんてことは考えていなかっただろう。
その人は少し戸惑った様子を見せたが、俺が乗るトラックを指で指して「あそこのトラックに乗ってくれ」と言った。
「あの、トラックはどこに向かうんですか?」
「GUNの本部だよ。せっかく生き残った所悪いが、またお前さんには戦ってもらうってこった」
その人は苦笑いをする。
ああ、またあんな目に遭わなくちゃいけないのか。
また、あんなものを見なくてはいけないのか。
死んだ友人達の無残な姿が鮮明に浮かぶ。
そんなことを思っていたら顔が曇っていたのか、彼は顔をにやりとさせながら
「まあ、お前さんのいた所と違って本部には最新型の兵器があるから大丈夫だよ」
なんて安心させるように言ってきた。
本気で言っているのか気休めで言っているのかはわからない。
けど、少なくとも俺はわかっている。さっきの戦闘があったから。あいつの力をこの目で見てしまったから。
たぶん、その兵器を使ったって相手に勝てっこないって。
その兵器を使ったって、またたくさんの死人が出て。その兵器も死体の山の一部になるだけだって。
「ま、とりあえず乗って治療を受けろ」
と、左肩を思い切り叩かれる。そんなことをされたもんだから俺はたまらず苦痛の声を出す。
彼は俺の反応を見てハッハッハと笑っている。普通怪我人にそんなことしないだろ。
俺は叩かれた傷を見る。血がまだ少し流れている。
俺は早く止まらないものかと流れる血を見ながら指示されたトラックへと歩いていく。