1話
「こちら第三小隊、聞こえるか!?」
左胸付近に付けてある無線から声。いつでもやりとりができるようにと電源は付けっぱなしになっている。
無線からはノイズ音と共に発砲の音や俺が聞いているのと同じような仲間の断末魔が聞こえてくる。
発信している主はその音に声がかき消されないように大声で話す。
「"赤い悪夢"の存在を確認した!気を付けろ!繰り返す――」
無線の電源を切る。はあ、と溜息。
敵のロボットの大群が撤退するかのように下がっていく。
もうすぐ、やつが来る。ただの邪魔になるロボット達は別の所へ行くつもりだ。
生きている仲間と顔を見合わす。
「助かった…のか?」
「さあ、な」
仲間がヘルメットを取りながら話しかけてくる。何度か見たことある顔だ。
ふと仲間の無線に視線を移す。電源は付いている。さっきの声は聞いているはずだ。
彼はまるでさっきまで戦闘をしていたとは思えないほどのほほんとした声で話しかけてくる。
「俺さあ、出身この街なんだよね」
彼は懐かしそうな目で街を見ている。
街はほとんどの建物が壊されて、少し前までの面影はほとんど無かった。
それでも、建物の看板とかが所々にあり、彼はそういう物を見つけると数秒それをじっと眺めていた。
「マジ?」俺がそう返すと、彼は「マジ」と返す。
戦闘とは全く関係の無い話。わかっている。
顔に出さないだけで、心は恐怖でどうにかなってしまうそうで。
こうでもしないと正気を保っている僅かな糸が切れてしまいそうで。
特に彼はそうなんだろう。故郷がこんなになってしまって。
彼の目からは涙が一滴も出なかった。ただ淡々とその現実を受け入れているようだった。
俺は何故、そんなに平気でいられるのかわからなかった。
遠くの方でまだ形を保っていたビルが崩れだした。
大きな音を立てて崩れだしたそれに全員の視線が集まる。
隣にいた彼も看板などから目を離し、ビルを見ていた。
その中から何かが飛び出てきた。
僅かに見える赤い小さな物体。ビルから出てきたそれは高速で動き、俺達の方へと向かってくる。
僅かな平和な時間は幕を閉じる。俺達はまた溜息をついた。
「ま、故郷の地に帰れるなら本望だ」
「ふざけるな。俺の故郷はここじゃないんだぞ」
「ははは。頑張って生き残ろうぜ」
そう言って彼はヘルメットを被って銃を構える。
さっきとは全く別の空気に変わる。ヘルメットの下で見えない眼差しは鋭くなっているのだろう。
俺は少し自分の体を眺める。これといった傷はない。
赤い小さな物体はどんどん近づいてくる。緊張で胸の脈動が感じられるほどになる。
ああ、俺はまだ生きているんだな。
前の方では既に銃を構え始めたようだ。周りにも既に構えているやつが何人かいた。
俺も銃を構える。
せめて、せめて生きて帰ることができますように。
そう願って俺は敵に向かって弾を放った。