HEAVEN’S DRIVE 1
自殺して、もう待っているのは「無」かと思っていた。
しかし、何故だか、目が覚めた。
ここはいったいどこだろう・・・?
―お目覚めですか?
―・・・ん?いったい誰ですか・・・あなた・・・。
そこにいたのは水色の変な形をした物体だった。
そして、その物体はまた話し始めた。
―私たちはチャオといいます。通称天使でいいですよ。
―天使・・・ですか?ってことはここって・・・。
―そう、ここは地球の虚数空間。地上では天国を言うらしいです。
―天国・・・。僕は何でこんなところに・・・。
―お忘れですか?たった一秒前にあなたは・・・
崖から飛び降りて自殺したではありませんか。
―・・・あ、なるほど、僕は・・・死んだんですね。
―そう、死んだんです。でも、別に引けるものでもないでしょ?
―何でそんなこと・・・。
―人間以外の生物もいつかは死を迎えるんですから。
―でも、僕は自殺・・・自殺なんかで・・・。
何で生きることに絶望して死んだのに、まだここにいるの?
―そうですね、答えは一つと言うところでしょうか。
死んだ人間がここに来るのは運命だからです。
僕はしばらくうつむいていた。
チャオ(天使というのは何となく引けるから)は、
僕をまるで当然ここにいるかのようにみている。
でも僕は、
自殺
で死んだんだ。僕に生きる価値は、そう、
皆無
そう。そうなんだ、僕は何もできることはない。
天国にきて生きてみたって結局僕は生きることに嫌気がさす。
それでも僕がここにいることは運命なのだろうか?
―そう、誰もが迷い困惑する。ここには逃げ道がない。
死という逃げ道が。
―当たり前ですよね。もう、死んでいるんですから。
―でも、死という逃げ道がない代わりにあるものがあります。
―あるもの?何ですかそれは?
―今からあなたがこの車で進めば分かりますよ。
そう、この車で。
迷わずに行きましょうよ。さぁ。
『HEAVEN’S DRIVE』
というわけで俺はこの天国に続く道、
国道777号線、通称ヘブンルートを進んでいる。
でも
現代と何も変わらない道。
上空には雲一つない青空。
別に草の色がすべて赤色であるわけでもないし、
空で黄緑と桃色の空が混じっているわけでもない。
そこにあるのは、天国でもない、それは
あのとき
と全く同じだった。
あのがけの上。
雲一つない青空、後ろにはこれまで走馬燈のように、
思い浮かぶ思い出をかみしめ歩いてきた道。
そして、その
瞬間
僕の天地は逆になり、やがて真っ暗になった。
―うっ。
僕はブレーキをかけ、ハンドルに突っ伏した。
泣いた。男だからなんて自分へのいいわけは通用しなかった。
泣いた、泣いた、泣いた。
涙は出なかった。もう、自分の存在はあっても、
実物ではないからだ。
あのとき
死んだら楽になれると思っていた。
あのとき
死んだら自分が後悔することはないと思っていた。
あのとき
死んだらもう終わりだと思っていた。
あのときが僕を駆けめぐる。
頭が痛い、胸が悪い、足がしびれる。
これ以上動けないような気がした。
僕は、近くの草むらに車を止めた。
そして、もう年は変わらないだろうこの二十歳の体に似合わず、
草むらに泣き寝入りしてした。
どれくらいたっただろう?
誰かが俺をつついている。
俺は泣きながら寝たことを思いだし、
泣くのがばれないように顔を伏せながら起きた。
―・・・誰ですか?僕を起こしたのは・・・?
―う~ん、あたしなんだけど、そっちは覚えているかなぁ?
―・・・あ!もしかして・・・。
―そ。あの時同じクラスだったよね。真那だよ。覚えてる?
天国で初めてみた人間はまたもや現実と同じだった。
それも、俺が一番幸せだったと自負できる高校時代の。
また、思い出がよみがえる。
うれしい思い出。そして、悲しい思い出。
止まらない。
でも、それを先に出したのは真那のほうだった。
―あのね、あたしね、あの後ずっと、怖かったんだよ。
・・・何でここにいるの?あたしに一言も言わずにさ。
あたしはもう・・・現実のこと、忘れたかったのに・・・。
・・・でも、無視して進めないあたしって馬鹿だね。
・・・それでも、あなたの答えが早く知りたいから。
まさか、終わった訳じゃない・・・よね?そうだよ・・・ね?
ぼろぼろと涙をこぼしながら言う真那に、
僕は心配よりもまず安心感が漂ってきたことを恥じた。
でも、
死んでまた、こんな天国に行く道で泣いて、
現代のときの俺を思い出して泣く人間が、
現代で生きられなくなった自分自身を悲しむ人間が、
一人でも多くいることに俺は安堵のため息をついたのだった。
それは罪なのだろうか。
いや違う。
これもまた、運命なんだって。