第2話 マッスル
増田瑠加は、水泳部だけどバスケが上手い男子だった。
体は細い。
苗字と名前を縮めて、マッスルってあだ名があった。
体育祭で活躍した時なんかにマッスルって呼ばれると、瑠加は嬉しそうにする。
「やっぱりマッスルのチャオはチカラタイプになるのか?」
休み時間、瑠加は友達と話していた。
チャオ、という単語を聞いて私は彼らの方を横目で見た。
瑠加は携帯電話でチャオの写真を見せているらしい。
「いや、こいつはヒコウタイプにしようと思ってる」と瑠加は言った。
「無理だろ。ダークチカラチャオになる、絶対。チャオは飼い主に似るんだぞ」
瑠加と同じ小学校に通っていた田村が言った。
「似るって言ってもそういうふうに似るんじゃねえから。それに、それだったらオヨギタイプだろ」
「私のチャオ、チカラタイプ!」
瑠加の近くの席の子が手を挙げて、言った。
「そうか、お前結構パワータイプだったんだな」と田村があしらうように言った。
「ちげえし」
彼女は田村の頭を平手で叩いた。
いい音がした。
「地味に痛いとそれはそれで反応に困るからな?」と田村は彼女をたしなめる。
「はいはい。いいから、チャオ見せて」
瑠加は写真を見せた。
いいね、いいだろ、と二人は話した。
「ねえ、きっちゃんもチャオ飼ってたよね。来なよ。瑠加も飼ってるよね?」
彼女に呼ばれて、私ときっちゃんも輪に加わった。
「こいつ、ヒコウタイプにしようと思うんだ」と瑠加は私に写真を見せながら言った。
「うん、聞いてた」
「どう思う?」
「いいと思う。飛んでるチャオって可愛いし」
写真のチャオはまだ子供で、たぶんこの前産まれたタマゴのチャオだった。
私のチャオも瑠加のチャオも普通のピュアチャオだったから、写真のチャオもピュアチャオだった。
丸い木の実を食べている途中だったそのチャオは、撮られていることを気にしてか、カメラの方を見ていた。
「ヒーローか、ダークか、それともニュートラルか。どれにしたらいいかな」と瑠加は私に聞いた。
「私は、ヒーローかニュートラルが好き」
ダークチャオになると、黒くなってちょっと怖い。
白いヒーローチャオは可愛いし、進化したばかりのニュートラルチャオのパステルカラーもいいと思う。
それに、この子の親はヒーローチャオとニュートラルチャオだから、どちらかに合わせてあげたいということも思った。
休み時間が終わってから、もしかして私にも飼い主としての決定権があると思って、あれこれ聞いてきたのかもしれないと気が付いた。
もしかしたらそれは恋人や夫婦の真似事をするのに丁度よかったのかもしれない。
けれど、そういう気は起こらなかった。
あれから、私たちの仲は特に進展していなかったのだ。