始まりの唄 つづき。

─いつかまた会える日を 信じて 願って 夢を見て─
先生におやすみを言って、そのチャオはベットにもぐりこみます。
ご主人様がつくってくれた、小さなぬいぐるみを手にして。
そのベットの隣の机の上に、額に入った写真のそばにおいてある、「遺言書」とかかれた手紙が一つ。
でも、そのチャオはそんな漢字なんてもちろん読めませんし、もし読めたとしても、内容は全然分からないでしょう。
ですから、先生はどこかそのチャオが知らない場所にこの手紙をしまっておこうとしました。
でも、そのチャオときたら、いやだ、ごしゅじんさまのおてがみはどこにももっていかないで、といって、驚くほどすばやい動きで手紙をひったくって、プンプンとしながらまた机の上に置きにいってしまいました。
そのチャオはその意味の分からない手紙を、何か悲しいことがあったときにはいつも読んでいました。
でも、何故だか分からないけれど、その手紙を見つめると、もっと悲しくなってしまいました。

─希望の光をじっと見つめて いつか 必ず また会おう─
そのチャオは、なんだか、不思議な夢を見ました。
そこは、七色のきらきら光る、へんてこな空間。
いつのまにか、そのチャオは不思議な世界で、一人でお得意のふえを吹いています。
そこへ、ご主人様がやってきて、何もいわずに微笑みました。
そして、一人と一匹で手をつないで、一筋の光へ向かって、音もなく歩きます─

今日は、どこへいこうか?そうだ、新しいお店ができたそうだから、一度いってみようよ。お昼はスパゲッティにしようね。
今日も、先生はチャオをお出かけに誘います。
いつもならそのチャオはすぐ断ってまたお絵かきを再開するだけです。
ところが今日は、
きょうはおてんきいいし、いこっかなぁ・・・・
と、その台詞のわりに乗り気のようす。
それには先生は目を丸くしましたが、結局二人はお出かけしに行きました。

お店の窓から光が差し込んで、裏側から見たショーウインドウを明るく照らし出します。
どこからともなく聞こえる、聞きなれた音が、店の外へ誘い出すようにワイワイしています。
そのチャオはお店のショーウインドウをながめて、先生がトイレから出てくるのを待っていました。
しばらくすると、コツコツと靴の音が聞こえてきました。だれかが、お店のほうへ入ってきたのでしょうか。
そのチャオの高さからは足しか見えませんが、女の人だということは、上を見上げなくてもわかりました。
その女の人が通り過ぎて─いや、じっと立ち止まって、それからしゃがみこみ、こっちをみています。
そのチャオも、その人をじっと見つめ返します。
二人はそのばでじっと見つめあっていました。

でも、お互い、はっと我に返って、お互いに照れくさそうな顔をしました。

だというのも、その女の人はご主人様にそっくりだったし、女の人も、そのチャオを昔飼っていたチャオにそっくりだと思ったのです。

そして女の人は微笑むと、
ポスターで、君のこと、見たよ。飼い主さん探してるんだってね。よかったら、私のうちにおいでよ。小さな家だけど、毎日おいしいご飯つくってあげるね。
そういって、ご主人様そっくりの女の人は、そのチャオのポヨをそっとなでます。

「それじゃ、このチャオのこと、宜しくお願いします。」
「はい、ご心配なく。」
女の人が、そのチャオの手を引いて、あるきだします。
先生は、大荷物で幼稚園を出て行く一人と一匹の夕日に映るようなシルエットを、後からそっと見送っています。
そして、そのチャオは、ちょっと立ち止まってうしろをふりむくと、
せんせーい!ばいばい!と、幼い声で、明るくさよならをいいました。
そして、あの詩をくちずさみながら、てくてくと歩いていきます。

─そして終わりは始まりだから また会えるよ いつか必ず─

そのチャオは、やっと、最後の意味が分からなかったフレーズの意味が、やっと分かったような気がしました。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第116号
ページ番号
2 / 5
この作品について
タイトル
始まりの唄
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
週刊チャオ第116号
最終掲載
週刊チャオ第134号
連載期間
約4ヵ月21日