grateful days 2

次の日から優は何を思うだろうか。
悲しくて泣き出すのかもしれない。
あの言葉を裏切った俺を怒るかもしれない。

そして、他の街に逃げてから5年の歳月が経った。
優からは連絡はない。
男はバイトを続けながら安いアパートを借りて住んでいた。

チャオはそれでも白くはならなかった。
男はそれを追っ手のせいだとは思わなかった。
きっと優を置いてきてしまった自分に罪悪感があるに違いない。
いや。
優を置いてきたことが、優を傷つけてしまったことが、
彼自身を悪とさせているのかもしれない。

そんなとき、昔の友人にあった。
彼はヤクザに入ったことはみじんも知らず、男に言った。

―親不孝な奴だな。おまえの母親は去年亡くなったって言うのに。

男はその瞬間凍り付いた。
え?な・く・な・っ・た・だって?
男はあわてて、自分のいた家に戻っていった。

10年ぶりに戻った家だった。
家にはぼうぼうと草が生えていた。
都会とは違って、何も変わらない景色だった。
一人っ子だったので、母親しか住んでいなかったに違いない。

中にはいると、近所の人らしきおばさんがいた。
しかし、その顔に見覚えがあった。
そうだ、小学校の時に何度かあったことがある母親の妹だ。
いつにもまして老けているように見えた。

―あなたのお母さんは一年前に癌でなくなった。
 今更何を求めに来たの?お金?あの人にそんなの無かったわ。
 貯めたお金も全部あなたにあげようと沢山ためていた。
 でも、詐欺にあって。全部無くなった。
 それもどんな詐欺だったと思う?
 息子という名目で怪我をしたからお金をくれだって。
 普通はオレオレ詐欺とか怪しむんだけどね。
 でも、姉さんはあれだけ反発した息子に喜んでお金を出した。
 そして最後には、癌。姉さんは結局貧乏なまま死んでいった。
―そんな・・・。

彼女はすこし怒った口調だったが、悲しそうな声でこういった。

―あなた、恋人はいるの?
―あ・・・あぁ、いる。
―そう、なら、あなた彼女を大切にしてあげなさい。

優の顔が浮かんでは消えた。
悲しくなった。
結局感謝するべき人を全員見捨ててきた。
自分の思いこみで、優を置き去りにしてきた。
でも、本当に男はそれで良かったのかと思った。

―あとね、あなたが何で赤ん坊の時からチャオを持っていたか、知ってる?
 あれはね、あなたがずっと優しい子であるように願っていた姉さんが、
 あのころまだ高かったチャオを一生懸命パートして買ってあげたものなのよ。
 だからね、もし本当にその恋人が大切なら、絶対大切にしてあげなさい。
 あなたがあの姉さんの血を受け継いでいるなら、
 あなたは人を大切にできるから、優しい人になれるから。

男は車に乗り込んで田舎の道を走った。
相変わらず、何もない街だった。相変わらず・・・。
男は車を走らせた。
雨が降っていたわけでもないのに、フロントガラスがぬれていた。

I got sound, I got feel, I got beautiful days
I got song, I got love, I got grateful days
I got it
You make me happy, when sky’s gray
Darling, my darling
Thank you father, mother and my friend…

携帯で懐かしいあの電話番号を押した。
そして、その電話番号はつながった。
優は男を捨ててはいなかった。
俺が借りたあのアパートまだ住んでいた。

―もしもし、・・・。
―その声は・・・。
―・・・。

男は半ばあきらめていた。
もうダメだ。もう、俺のことを信用していないと。
怒り声が聞こえてきてがちゃんと切られるだろうか。
しかし、返事は思いがけないものだった。

―待っているから。ずっと、待っているから。

男は泣いた。声は出せなかった。
情けなかった。男は初めて、自分が弱い存在であると言うことを知った。
男は車を走らせた。
危険な街だ。
どこに誰がいるかわからない。
でも、男は早く会いたかった。
今度こそ優と一緒にどこかで暮らそう。

男はいつかのアパートの前に立っていた。そして、同じく、
アパートの前に人影が見えた。

―・・・バカ。

その人影はそれだけ言って部屋に戻っていった。
男はその人影をあわてて追いかけた。
このとき、初めてチャオは白い色に変わった。
そして、ヒーローチャオに進化した。

5年後―

優と男の間に女の子が生まれた。4歳になる。
二人はヒーローカオスに進化したチャオの代わりに、
新しいチャオを貧しいながらも買ってあげた。

―ねぇ、お父さん。どうして私にチャオをくれたの?

たまに娘が聞く度に男はこう答えるのだ。
男は、彼女が大きくなったときに、
またこの質問をしてくれたらいいなと思いながらこう答えた。

―人間の「こころ」をあらわすからさ。
 おまえが良いことをすればチャオは白くなっていくんだ。
 俺も優もこのチャオが白くなることを願っているんだよ。
 そして・・・みんなに感謝をしなさい。
 毎日を「素敵」に変えていくんだ。いいね?

fin

このページについて
掲載号
週刊チャオ新春特別号
ページ番号
2 / 2
この作品について
タイトル
grateful days
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号